『日本人とは何か。』
- 著者:山本七平
- 出版:祥伝社
- ISBN:4396500939
- お気に入り度:★★★★★
独特の視点から日本人の特質を鋭く描いてみせる山本七平。彼が外国人から受けた質問などを問答形式で紹介しながら、縄文時代から明治時代直前に至る迄の日本の様相を歴史を追って解説した、集大成のような一冊だ。
日本の歴史は日本史の授業でそれなりには学んだが、言葉や年代を覚えるのに忙しく、その背景事情や経緯、影響についてまではなかなか理解できていない。また、他の国の同様の状況と比較したり、その違いから日本人の特性について考察してみたりなど、なかなかそこまで発展しない。この著書にはそういったことが分かりやすく解説されていて面白い。
例えば日本人はエコノミック・アニマル(経済的動物)と呼ばれるが、近代に入ってから急にそうなったわけではなく、もっとはるか以前からずっとそうだったことが、ここでは紹介されている。日本人が経済に強いイメージはあまりなかったが、ここでは日本で流通した貨幣の凄まじさが紹介されていて面白い。
当初は日本でも、貨幣はなかなか定着しなかったという。銅の精錬技術が伴わなかったせいだが、この状況を一変させたのが平清盛だ。自国で貨幣が造れないなら、中国から輸入してしまえと、1164年に周囲の反対を振り切って断行した。するとものすごい勢いで貨幣は日本に定着。およそ100年後には相互銀行のようなものができ、武士の私領も金で売買され、庶民のものになってしまう事態が出て来た。幕府は何度もそれを禁止。しかし貨幣の勢いは止まらず、1239年には「通貨禁止令」を発布して貨幣の流通を場所を限定して禁じようとまでした。
これが韓国ではどうだったか。先の「通貨禁止令」より180年後に、韓国では貨幣を流通させるため、米や布などを貨幣代わりとする物品貨幣の使用を厳罰で禁じている。日本では貨幣が流通しすぎて禁じなければならなかったほどなのに、なかなか定着せず苦労したあとがうかがわれる。また、この頃日本に来た韓国の使節は、日本国内ではお金さえあれば他に何もなくても旅ができることに驚き、別の使節は乞食が食べ物を乞うのではなくお金を乞うことに驚いている。
結局韓国では家綱の頃まで貨幣は定着しなかったし、ベトナムでも貨幣は18世紀頃まで定着しなかったそうだ。爆発的に貨幣が流通した日本の方が、東アジアでも異質だったようだ。
そして中国では、銅銭の流出が凄まじかったため、1115年に銅銭輸出禁止令が出されたが、それでも解決しなかったため、ついに紙幣が発行された。今も日本人はすごい勢いで何かを輸入することがあるが、この傾向もこの当時から変わらなかったようだ。
日本史の授業では、確かに「渡来銭」や「通貨禁止令」などについても習ったが、他国の通貨を輸入して使うという発想は、今改めて考えてみると奇妙に思える。また、日本人がお金を使うことにそこまで積極的だったという認識もなかった。
このようにさまざまな例を挙げながら紹介してあると、日本人の傾向が次第に見えてくる。近い位置に超先進国の中国があり、強烈に憧れながらも来たら全力で打ち払わねばならないという畏怖を持っていた。こうした先進の文化を輸入しては、自分たちの歴史と照らして共鳴する部分は積極的に掘り起こして日本流に変換し、共鳴しない部分は一向に受け入れない。その憧れとする対象はやがて西欧となり、戦後はアメリカとなったのだろう。どちらかというと後進国だが、ひとたび改革がおこるとものすごい勢いでそれらを浸透・変化させ、一躍世界のトップにも躍り出る。一方では変化しない部分を根強く持ち続け、それがあるからなのか、驚く程大胆な変革を平然と行う。
その背後には、日々の仕事の中で黙々と工夫を凝らし、各々の興味のあることを着実に進歩させようと努力する日本人の姿が見えてくる。現在の日本の状況は、日本の負の部分が噴出しているように思えるが、こうして見てみると、いったんスイッチが入りさえすれば、駆け足で大きな変革を成し遂げるのかもしれない。
目次も興味深かったので全部書いてみたけれど、あまりに長くなるので2章以降は読みたい人だけどうぞ。
目次
- 序文 新しい“菊と刀”
- プロローグ 『体勢三転考』の日本――伊達千広が描いた歴史観
- 日本人の模倣と独創性
- 「骨(かばね)・職(つかさ)・名」――日本史を三つに区分する根拠
- 第一部 「骨(かばね)の代」から「職(つかさ)の代」へ
- 第二部 「職(つかさ)の代」から「名の代へ」
- 7章 武家と一夫一婦制
- なぜ武士の時代を「名の代」と名づけたのか
- 盗賊の横行と自警団としての武士の台頭
- 清盛の登場、「公地公民」との訣別
- 頼朝はいかにして実質上の支配権を得たか
- 一夫多妻を罪だとした北条重時
- 女性への失礼を戒める家訓
- 主従関係と血縁関係を、いかに調整するか
- 現代の日本人に通ずる「気くばり」のすすめ
- 8章 武家革命と日本式法治国家の成立
- 9章 武家法の特徴
- 土地の所有権を規定する二つの条文
- 一度所有した土地の相続は一切自由
- 女子にも同等の権利と義務
- 相続権を渡した妻と離婚したらどうなるか
- 土地相続に幕府が介入する数少ない例外
- 功績も責任も罪科も、一族ではなく個人にある
- 「縁座」を認めない日本、罪九族に及ぶ中国
- 『十六夜日記』の主人公は、なぜ鎌倉へ向かったのか
- 朝幕併存という日本独特の体勢の誕生
- 10章 エコノミック・アニマルの出現
- 11章 下克上と集団主義(グルーピズム)の発生
- 12章 貨幣と契約と組織――中世の終わり
- 第三部 名の代・西欧の衝撃
- 第四部 伊達千広の現代
- エピローグ 明治維新の出発点
- なぜ日本は明治維新に成功したのか