『プロバビリティ・ムーン』『プロバビリティ・サン』

あらすじ

20世紀半ば、太陽系外縁でのちにスペーストンネルと呼ばれる不思議な建造物が発見された。このトンネルは人類に外宇宙への扉を開いた。だが、やがてそうした新世界で、人類は苦しい戦いを強いられる。そんなおり、新世界のひとつ「世界(ワールド)」で、戦況を一変させる、強大な力を秘めた人工物が発見されたが……!?

カバーより

あらすじ

地球で謎の人工物の報告書を目にしたカウフマン少佐は、世界(ワールド)の山中に秘められた人工物こそ、敵フォーラーを撃破する鍵になると確信した。太陽系随一の物理学者カペロを加えた調査チームを編成したカウフマンは、一路世界(ワールド)へと赴く。やがて聖なる山々に分け入り、いくつもの洞窟をくぐりぬけて、人工物のもとにたどり着くや、ただちに発掘作業にとりかかった!一方、フォーラーの生け捕り作戦も極秘で進められていたが……!?

カバーより

 意識が何かを判断する場合、必ずしも毎回同じというわけではない。数学のように常に一定の答えが出るようには、意識は働かない。また、人によっても反応は異なる。ある人と別の人とで判断が異なるという事態は日常茶飯事だ。これが常に周りの人と同じでなければならなかったらどういう社会になるだろうか。このSFに登場する異星人は、周囲のものと同じ考えを共有することで成り立っている社会を築き上げている。


 人類は、人類に解明できていない技術を使って造られたスペーストンネルを発見し、これを使いこなせる程度にはなっていた。これを使うことで人類の外宇宙への進出は飛躍的に進んだ。しかし進出したその先で、人類とは全く異なる異星人フォーラーと遭遇した。フォーラーは問答無用で人類を攻撃してきたため、現在人類とフォーラーは戦争状態にある。


 全く異質なフォーラーとは別に、人類と起源を同じくする人間に近い異星人たちも外宇宙で発見された。〈ワールド〉もそんな惑星の一つ。ここには人類とよく似た異星人が、花を愛でて平和に暮らしていた。この社会の一番の特徴は、共有現実というもので社会が成り立っている点だ。彼らは周囲の人達と異なる意見や考えを持つことができない。異なる考えを持っていると、激しい頭痛に見舞われる。この頭痛が抑止となって、ここでは調和が保たれる。だから暴力沙汰などもあり得ない。


 このワールドの軌道上で、スペーストンネルと同じ技術を使った人工物が発見された。これは負けがこんでいるフォーラーとの戦争を、停止する可能性を秘めている。地球から密かに調査隊が送り込まれ、人工物が何でどういう働きをするのかが探られる。


 『プロバビリティ・ムーン』では、軌道上のその人工物をめぐって騒動が起こる。一方で、ワールドに降り立った地球からの調査隊とワールドの住民との交流が描かれる。ワールドの住民側からは、主にエンリの視点を通して描かれる。エンリはワールドのタブーを犯したため、共有現実から閉め出されていた。しかし、密告者として地球人をスパイすれば、現実者に復帰できると約束され、言葉を覚えて地球人と行動を共にする。果たして地球人は現実者なのか。異星人の視点から見る地球人の様子が面白い。


 『プロバビリティ・サン』では、ワールドの地中に埋まっていた別の人工物を巡って、地球から再び調査隊が派遣される。前回のメンバーは2人だけで、ほとんど異なるメンバーで構成されている。この研究のために派遣されたトム・カペロが個性的で面白い。特に、新しい理論を思いつき我を忘れて研究に熱中するシーンなど、うまく描かれている。また、もう一つのプロジェクトでは、密かにフォーラーが生け捕りにされ、共感者マーベットが意思の疎通を図ろうと試みる。このやり方が斬新で面白い。これまでのSFで、異星人に対してこういうアプローチ方法が試みられたことはなかったのではないだろうか。軍人のカウフマンもそつがなくてなかなか味がある。1巻目より2巻目の方が登場人物が明らかに個性的で、面白くなっている。


 続く『プロバビリティ・スペース』では、マーベットとカウフマンが再び登場するようだ。スペーストンネルを始めとする謎の人工物を造ったのはどういう種族なのか、社会構造が変革してしまったワールドがどうなっていくのか、果たして意識の謎は解けるのか、続きが楽しみだ。