『キルン・ピープル』(上・下)

 たいへん面白くて私好み。ユーモアに溢れたハードボイルド調のSFで、最後はほろりとさせられる。自分自身の複製を作れることで社会の様子が一変してしまった未来を舞台に、陰謀に巻き込まれてしまった私立探偵アルバート・モリスは、謎を解くために大活躍する。


 この時代、陶製のゴーレムに定常波を焼きつけることで、自分自身の複製を何体も作ることができる。そのゴーレムは焼く直前までの生身の身体の記憶と個性を持ち、様々な活動を行うことができる。ゴーレムは色によって機能が異なり、用途に応じて使い分けられている。通常業務にはグレー、家事などの雑事にはグリーン、専門的な技術にはエボニー、エッチにはホワイトといった具合だ。ゴーレムの耐久は1日で、体験した記憶は回収して生身の身体へと併合される。


 このゴーレムの普及によって、社会のありかたは根本から変化した。仕事、倫理、宗教、福祉、戦争、娯楽など、やり方だけでなく、位置付けや性質までが全く変化してしまっている。例えば、戦争はまるでスポーツのようである。陶製のゴーレムが人間の複製として機能しうるという設定には無理があるとは思うが、それが実現した社会の様子は、こと細かく描かれていて説得力がある。また、こういうアナログな技術が先進的と映り、コンピュータなどのデジタル的なものが時代遅れと映る価値観も、今となってはかえって新鮮味がある。


 アルバートは、ユニバーサル・キルンの重役の一人、ヨシル・マハラルの原形の捜索を依頼された。ユニバーサル・キルンはゴーレムを開発した巨大企業で、ヨシルはその開発者。依頼人は一人娘のリツ・マハラル。彼女もユニバーサル・キルンで働いていて、社長イーニアス・カオリンの秘書を務めている。


 一方で、著作権侵害をされたジニーン・ワムメーカーの事件を解決したばかりのアルバートは、再び彼女に呼びつけられた。新しい仕事を依頼したいという。アルバートは3体のゴーレムを焼成し、2体を捜査に、1体を家事に当たらせる。けれども本体が休息している隙に、ゴーレム達は3体とも行方不明に。さらにアルバートの宿敵ベータが絡んでくるは、ぶっとんだ友人パルのフェレット型ゴーレムも乱入してくるはで、物語は複雑に展開する。次々に危機が訪れ、最後にはスケールの大きな話へと膨らんでいき、SFとしても堪能できるし、ミステリーとしても面白い。


 語り口も凝っていて、一人称形式で語られているのに、多人数の視点から描かれている。自分自身が何体にも分裂できる時代ならではの、目新しい語り口だ。しかも記憶を回収できなかったゴーレムの視点はいっさい無く、徹底している。何体ものアルバートの活動を通して、読者には次第に事件が見えてくる。しかし、すでに他者となってしまった各アルバート達にはお互いの状況がつかめない。自分でもあり他者でもあるという微妙な関係が面白い。


 主人公アルバートが、粘り強くてあきらめず、なかなかいいヤツなのが印象的だった。また恋人のクララにベタ惚れなのも好印象。クララもなかなか個性的な女性で好感が持てる。