『ゴールデン・エイジ2−フェニックスの飛翔』

 『ゴールデン・エイジ』(感想はこちら)の2巻目。元は1冊の長篇なのだが、長すぎるので邦訳では3冊に分冊されたらしい。


 前巻で、失われていた記憶を取り戻した主人公ファエトン。その代償として、勧告者共同体ホーティター・カレッジから〈黄金の普遍ゴールデン・エキュメン〉を追放された。周囲の者がファエトンに何かを売ったりサービスしたり話しかけたりしても、同様に追放されてしまう。ファエトンの唯一の財産は超金属のアドマンティウムで出来た防護服のみ。その裏地からナノ素材を削り取り、プログラミングの技術を駆使して必要な物をつくり出しながら、ファエトンはハリヤー・ソフォテクから勧められたタライマナーへと向かう。苦難を乗り越えながら辿り着いたタライマナーには、何らかの罪で追放された、船上人と呼ばれる人達が大勢暮らしていた。


 SF的なガジェットがふんだんに使われながらも、それらを取り外してみれば、根本的には冒険物語。手持ちの物や技術を駆使し、出会った人々を説得したり、物や労働などと交換したりしながら、自分も相手もハッピーになる方法を考えて、窮地をくぐり抜けていく。この描き方は物語としての王道を忠実に踏んでいるように思える。例えばファンタジーの『ザンスシリーズ』。登場する魔法をSF的な手法で理屈付けるとこうなりそう。『オズの魔法使い』などとも近そうだ。ドロシーがライオンや樵やかかしなど、それぞれ弱点を持つ仲間を得て助け合うように、ファエトンもドロップアウトした船上人達を仲間にして助け合う。彼等が自立し生きて行けるようシステムを作り上げ、元総元締だったアイアン・ジョイと交渉し、本人にも満足できるように落としどころを探る。途中騙されて身ぐるみはがされ、湖の底に沈んで絶体絶命の状態にも陥りながらも、良い魔女ならぬライフ・オブ・ザ・シーの助けも得て、着実に状況を改善していく。


 今回はファエトンの妻ダフネのコピー人格*1も活躍している。前巻ではどちらかといえばイベント好きの甘やかされたお嬢さんといった印象が強かったが、今回はなかなか魅力的に描かれている。困難な状況下に置かれても笑い飛ばし、へこたれない。それでいて女性らしくてかわいらしい。オリジナルのダフネ・プライムにこだわる頑固なファエトンとの、諍いやロマンスもある。


 そんな中、陰謀の影がちらつく。ファエトンのメンタリティに攻撃を仕掛けた敵は、どうやら〈沈黙の普遍サイレント・エキュメン*2らしいとファエトンは見当をつけた。けれども彼がそこにこだわっていること自体が、実は他の敵が仕掛けた陰謀のせいではないかという疑惑もあり、まだまだ謎に包まれている。


 筋立ての面白さもさることながら、SF的な設定が実に詳細で壮大なところもこの作品の魅力だ。これまでの歴史の流れや脳の形態の違い、人工知性やナノテクノロジー、不死化の技術やそれにまつわる法的な措置、名前の扱い、木星を太陽にする事業や恒星船など、多方面に渡ってこと細かく設定されている。技術的にも詳細で、これがSFとしての説得力となっている。私自身はわりと読み流しているが、こういう細かい設定が好きな人にはとても面白いだろう。


 かつては自分の所有物であり、夢を託していた恒星船〈喜びのフェニックス号〉を、取り戻すまでには至らないまでも、何らかの接点を保っていられる程には状況を改善させたファエトン。ラストとなる三巻目が楽しみだ。

*1:オリジナルは一種の精神的な自殺を計って溺入ドラウンド

*2:第5精神構造期に、白鳥座を目指して旅立った文明。残された地球の人々との交流が無く断絶していたため、こう呼ばれている