『記憶の書』

 『白い果実』(感想はこちら)の続編。三部作の内の二作目。いつまでたっても出ないなーと思っていたら、知らない間に出ていた。検索する時に前作の翻訳をリライトした山尾悠子さんの名前をキーワードにしていたのだけれど、今回は詩人の貞奴さんがリライトをしていたため、引っ掛からなかったようだ。シリーズなのにまさか途中で変更されるとは。リライトする人が変わったことで、クラシカルで陰のある繊細さは薄れ、切れ味鋭く骨太になったような気がする。 統一感が無くなったという点では残念だが、リライトによるイメージの違いを楽しめるという点ではお得かも。三作目は誰がリライトするんでしょうか。


 表紙のイラストは前作同様の精緻なタッチで素晴らしい。本文に使われている書体も趣があって、この作品の雰囲気にあっている。エディトリアル・デザインに凝った良い本だ。


 それにしても前作の粗筋を、驚く程覚えていない。ストーリーよりも、むしろ雰囲気とかイメージに重点を当てた作品だったからだろう。読み直そうにも、本はまだ引っ越しの段ボールの中にあって*1、探し出せそうにない。困ったものだ。


 今回、元観相官のクレイは、マスターとして理想形態市を支配していたドラクトン・ビロウの、頭の中に構築された世界へ入り込む。前作で理想形態市が崩壊して以来、クレイはウィナウで平和に暮らしていたのだが、ビロウはそこに住む人々を放っておいてはくれなかった。ある日機械仕掛けの鳥がやって来て、ウィナウの人々を眠り病に陥れた。人々を救うために、クレイはビロウに会いに行く。けれども眠り病の治療方法は、唯一ビロウの記憶の世界にあるという。出会った魔物の特殊な力を借り、クレイは記憶の世界へ入り込む。


 ビロウは何かを記憶する時、それらを記憶の世界に配置した物や人物に象徴させて記憶していた。ビロウの記憶の世界には4人の人物がいて、それぞれのテーマで実験をしていた。クレイはその中のアノタインという女性の検体として迎え入れられる。幻想的に紹介される記憶の世界。クレイはアノタインと恋に落ち、溺れる。けれどもビロウの記憶の世界は次第に崩壊しはじめる。そんな中、美化され都合良く変更されたビロウの過去も、少しずつ垣間見えてくる。彼のこのような記憶方法を取得した経緯なども紹介されている。


 それにしても、ビロウの発想は最低でどうしようもない。こんな理屈を展開されては、子供には大変迷惑だろう。しかも子供のためと言いながら、結局は自分の力を誇示したいだけでしかないし。クレイも前作に比べればましではあるものの、誘惑に弱く溺れやすい卑小な人物というイメージがどうしても拭えない。三作目ではどういう展開になるのだろうか。

*1:本棚を壁一面に作り付けにしたいので、出来上がるまで整理ができない