『移動都市』

あらすじ

60分戦争で文明が荒廃した遥かな未来。世界は都市間自然淘汰主義に則り、移動しながら狩ったり狩られたり、食ったり食われたりを繰り返す都市と、それに反撥する反移動都市同盟にわかれて争っていた。移動都市ロンドンに住むギルド見習いの孤児トムは、ギルド長の命を狙う謎の少女ヘスターを助けるが……。過酷な世界でたくましく生きるトムとヘスターの冒険。傑作シリーズ開幕。

カバーより

 およそ千年後の未来を舞台に繰り広げられる、少年少女が主人公の冒険活劇小説。なかなか面白いが、SF的には今のところまだ微妙。帯にはSFをうたってあるが、私としてはファンタジーに括りたいところだ。4部作の1作目だそうだから、今後もっとSFとしてのネタが出て来るのかもしれないが、出てこなかったとしてもこれはこれで十分楽しめる。いずれにしても、ジュブナイルとして子供が読むのにちょうどいいし、大人が読んでも十分面白いと思う。


 この世界では、クリストファー・プリースト作のSF『逆転世界』のように都市が移動する。『逆転世界』の場合は移動し続けなければならない確固たる理由があってSFたらしめていたけれど、こちらの場合は、移動して、弱い都市を捕獲して略奪する。


 そんな社会構造が果たして成り立ちうるのかどうかはともかくとして、世界観や設定は細かいところまで作りこまれていて説得力がある。都市にもそれぞれ特色があり、大きな都市や小さな都市、アウトローの海賊都市、移動を止めて静止都市になったものや、空へと逃れて飛行船乗り達の交易所となった空中都市など、様々あって魅力的だ。それが主人公の冒険とともに次々に紹介されていく。こういった構成もうまいし、冒険の流れもいい意味で期待を裏切って予測のつかない方向へ転がるなど、展開もうまい。


 移動都市のひとつロンドンに住む、冒険を夢見る史学士見習いのトムは、あこがれのギルド長ヴァレンタインを殺そうとした少女ヘスターから彼を救い出した。しかし思いがけずもロンドンから突き落とされてしまい、荒野に取り残されてしまう。ロンドンを追いかけてヘスターとともに旅を続けることになったトム。途中さまざまな都市に立ち寄り、冒険を重ねることで、トムは大人へと成長していく。一方ロンドンでは、ヴァレンタインがアメリカ遠征から持ち帰った古代の遺物〈メドゥーサ〉が、復活されようとしていた。クローム市長の野望もと、ロンドンは不穏な動きを見せてゆく。


 登場するガジェットなどはまさに宮崎アニメ。巨大な獣のような移動都市や、飛行船が飛び交う空中都市などはまさに宮崎さんが好きそうだし、古代の戦争の遺物のストーカーやメドゥーサなどもいかにもな感じだ。大人の女性として辣腕ぶりを発揮する飛行船乗りのアナ・ファンなんかもそれっぽい。主人公も少年少女で、読んでいるといかにもアニメ化するのに向いていそうな内容だ。もっとも宮崎アニメならヘスターよりキャサリンの方が主人公になりそうだけれども。


 4部作だが、この1冊はこれで一応の完結はしているので、とりあえずこれだけ読んでみるのもいいかもしれない。