『火星年代記』

 すでに古典SFとして不動の地位を占めているとも言えるべき名作。でもブラッドベリはあまり読みたい気がしなくて読んでいなかった。彼の作品は『ウは宇宙船のウ』など、萩尾望都氏の漫画を通じて知っている程度。


 読んでみると想像していたのと少し印象が違っていた。もっと火星人が出て来るのかと漠然と思っていたが、火星人達は最初に少し登場しただけで、すぐにいなくなってしまっていた。また、人間の愚行がこんなふうに風刺して書かれている作品だという認識はぜんぜんなかった。ブラッドベリの作品は文章の美しさで評判が高いが、それのみが先行し過ぎていて、作者が問題視していたテーマについてはあまり伝わっていなかったのかもしれない。


 確かに文章は美しいと思う。けれども、作者の神経質さやペシミスティックさが全体に漂っていて気が重い。