『ロマンスのR』

  • 作者:スー・グラフトン
  • 訳者:嵯峨静江
  • 出版:早川書房
  • ISBN:9784152086440
  • お気に入り度:★★★☆☆
    あらすじ

    恋は不思議なもの。ある時は人生に歓びを与え、ある時は苦難をもたらす…

    年老いた大富豪ラファティの依頼は、ごく簡単なものだった。甘やかされて育った一人娘のリーバが、横領の罪で服役していた刑務所から出所するのを迎えに行き、自宅へ送り届けてほしいという。30歳を超えているのに常識に欠けるわがまま娘のお守り役だが、ひどく楽な仕事に思えた。出所したリーバはキンジーに気を許し、なにかと制限の多い仮釈放中の生活で友人づきあいを求めてくる。だが、彼女の元の雇い主ベックがマネーローンダリングに手を染めており、彼と愛人関係にあったリーバがそこに足を突っ込んでいたことが判明し、楽な仕事は吹っ飛んだ。ベックを摘発したいFBIや国税庁の合同チームがリーバの証言を求めて接近してくる。チームに参加しているのが、旧知の市警チーニー警部補だったことから、キンジー自身の身にも予想外の出来事が!

    カリフォルニアの女探偵が、ひさびさの恋に燃えつつ事件に挑む、人気シリーズ最新作。

 キンジー・ミルホーンシリーズの18巻目。今回キンジーは仮出所した資産家の娘リーバのお目付け役を引き受ける。リーバはマネーロンダリング事件の情報提供者にしようとFBIがマークしていた人物で、地元警察としてFBIと協力していたチーニーは、協力するよう彼女を説得してほしいと、キンジーに持ちかけた。しかしFBIは独自にリーバに接触してしまう。FBIから恋人の裏切りを知らされたリーバは、借りを返すために大胆な行動に出てしまい、一緒にいたキンジーは引き止める余裕なく、巻き込まれてしまう。


 タイトルにもある通り、今回はキンジーにロマンスが芽生える。これまで彼女の恋愛はなかなかうまくいかなかった。彼女は2回離婚していて、シリーズ中に警官のジョナと親密になったりもするが、結局はジョナ自身が奥さんとくっついたり離れたりを繰り返すのに振り回されてしまい、うまくいかなかった。探偵という危険な仕事と恋愛の両立は難しく、またキンジー自体もおしゃれに疎かったり、媚を売る能力がなかったりして、ロマンスとは縁遠い状態が続いていた。しかし今回はいきなりロマンスが燃え上がり、それが持続している。そろそろこのあたりで仕事だけではなく私生活もうまく行くといいと思う。


 キンジーに比べてリーバはその辺が逆で、おしゃれ上手でキンジーに服装のアドバイスをしたり、男性とあっという間に仲良くなっていろいろなことを融通してもらったりと、世渡り上手だ。また怖いもの知らずの大胆な行動で非常に危険な状況をかいくぐり、ちゃっかり勝利してしまう。生真面目なキンジーには絶対真似できないだろう。キンジーとはまったく違うタイプの女性が描かれていて、それはそれで小気味いいのが今回の見所でもある。


 このシリーズも残すところ8巻となった。Aから始まった時には、そうはいってもZまで続けるのは難しいんじゃないかと思っていたが、途中で間があきながらも地道に続いている。この作者ならきっとZまでがんばってこつこつ書き続けるのだろう。