『アグレッサー・シックス』

  • 著者:ウィル・マッカーシー
  • 訳者:冬川亘
  • 出版:早川書房
  • ISBN:9784150115074
  • お気に入り度:★★★★☆
    あらすじ

    西暦3366年、突如オリオン座方面から、謎の異星人艦隊が侵攻した。彼らは圧倒的な戦力で人類の防衛艦隊を撃破、シリウス、ウルフ、ラランデの各星系内の植民地を次々に殲滅し、数十億の人類が死に絶えた。敵が次にめざすのは地球。絶望的な状況のなか、人類に残された最後の希望は、〈アグレッサー・シックス〉――敵の言葉を話し、敵のように生活し、思考することを任務とする特殊チームが立案した驚くべき戦術だけだった!

    カバーより

 異星人との戦争SF。


 圧倒的な科学力で人類をはるかに凌駕するウェスターから、対立する原因もわからないまま、人類は一方的に襲撃されていた。このウェスターの行動を理解し作戦を予測するために、アグレッサー・シックスが結成された。


 ウェスター達は6体が1つの集団となって行動する習性がある。クイーン1体、ドローン2体、ワーカー2体、ドッグ1体で構成されていて、それぞれ役割も分担されている。アグレッサー・シックスもそれにならって、女性1人、男性4人、犬1匹で結成された。この犬はマーシアン・レトリバーと呼ばれる特殊な犬で、知性を持つよう交配を繰り替えして作られた犬種である。その首輪につけられた神経インターフェイスは犬の思考を拾い出し、人間の言葉へと翻訳する。いわばしゃべる犬である。


 このアグレッサー・シックスがなかなか面白い味を出している。彼らは脳に〈言語中枢網(ブローカ・ウェブ)〉を取り付け、ウェスターの言葉のフウヘ語で思考する。物語はケンがドローン役としてこのアグレッサー・シックスに加わるところから始まる。彼はここに配備される直前に、「はえたたき作戦」と呼ばれる過酷な戦闘に参加した数少ない生き残りの一人だった。異質なウェスターを直接目にして戦った経験は彼を蝕んでいたが、アグレッサー・シックスへ配備された彼には癒される余裕がないどころか、ウェスターのロールプレイは彼をますます追い込んでいく。次第にエスカレートしてゆく彼らのウェスターっぷりが興味深い。


 また、過酷な戦争の一方で、過去の優雅できらびやかな帝国時代の遺物が垣間見えて歴史を感じさせる。奇妙な異星人ロールプレイという側面に、戦争の過酷さやこうした貴族的な歴史の対比がいっしょくたに詰め込まれていて、不思議な味を出している。


 非常にゆっくり進む光の仮説も面白かった。確かにこの光を見る能力のある人間がいても不思議はないように思える。けれども例え進むのが遅かったにせよ、全てのシーンが見えるわけではなく、ある一部のシーンだけが見えるとなると、そこには何らかの条件が必要となる。光源の種類などが関係してくるのだろうか。


 SFも次第に古びて行くが、この作品にはどこか新しさを感じさせるところがある。ひとつには、戦争物でありながら、国家とか独裁者などの色を感じさせないことがあげられると思う。国に対する使命感もなければ、国対個人という対立もない。大きな物語とやらの崩壊した今の時代にふさわしい。


 もうひとつには、異星人を淡々と描いていることがあげられるように思う。擬人化せずに異星人を説明する方法として、ロールプレイという方法をとった。相手をこちらに近付けるのではなくて、主人公達をあちらに近付けることを通じて、読者に異星人を説明しようとしている。それが独特の味を生み出しているように思う。SFとしてもそれなりに本格的で、今後の作品が楽しみだ。