『帝王の殻』
- 著者:神林長平
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150305246
- お気に入り度:★★★☆☆
火星の都市・
『あなたの魂に安らぎあれ』(感想はこちら)の続編。時間軸上では『帝王の殻』の方が『あな魂』より前になるようだ。二つの作品をつなぐように両方に登場しているのが、地球国連アドバンスガードの梶野少佐。『あな魂』が地球人の話だったのに対し、『帝王の殻』は火星人の話である。
火星の秋沙では、人々はPABと呼ばれる機械の副脳を持っていて、これに話しかけることでPABを自分自身の一部であるかのように育て上げる。人々はこのPABに自我を投影し、自己と混同し、それとの対話に依存している。PABを開発する秋沙能研の能研長の秋沙享臣は、PABを通じて実質火星の帝王として君臨していたが、その息子の
『帝王の殻』で大きなテーマとなっているのが、父と息子の確執だ。何組かの父と息子が登場し、どう父親を乗り越えるか、どう息子と対峙するかといった問題をそれぞれ試行錯誤する。私にはこのテーマは必要ないなぁ。なぜそんなに意地を張らなければならないのか理解しがたい。もっと素直になれば楽なのにと思う。また、前作同様こちらにも、これが書かれた1995年という時代の空気が色濃く反映されているように思う。モラトリアムな感じとか、閉塞感とか、分裂気味の自我とか。PABと自己の境界があいまいなところなども、とても日本の社会を反映しているように感じられる。
ひとつ面白かったのは、人間の進化がデジタルだという指摘だった。
いまのわたしには当時の意識がない。機械人は同じ姿で生まれ変わっていくんだ。人間のように親から子へ、というデジタルな進化じゃない。アナログ的なゆるやかな変化だ。P383より
親から子へとDNAが受け継がれていくことを、「デジタルな進化」と捕らえるのは、面白い視点だと感じた。
このシリーズは、この後に『