『ワンダフルライフ』

あらすじ

漫画家の山田錦さんはある冬の夜、すっぽんぽんの酒臭い男が路上に寝ているのを発見しました。よく見ればなかなかいい男です。凍死してはたいへんと、山田さんはその男を自宅へ連れ帰ります。衝撃の出会いが奇妙な縁となって山田さんはその泥酔男、天下太平氏と結ばれるのですが、彼こそは世界平和と愛のために戦う宇宙超人だったのです。清く正しい妄想をつきつめて、ある意味、理想の家庭を描いたホームコメディ。

カバーより

 清原なつのの作品は、早川書房から何冊か文庫化されている。彼女の描くSFは、ほんわかしたライトタッチで、彼女の漫画の主な発表の場だった「りぼん」や「ぶ〜け」の読者層にも受け入れやすそうである。彼女の作品はどれも哲学的な視点が色濃く、また、冷静な観察眼や距離をとったものの見方が、SFに通じるところがあるのだろう。SFでない作品も何冊か早川書房から単行本化されているが、順調に出され続けているところを見ると、早川書房の独特な読者層からも好評なのだろう。


 今回のこの『ワンダフルライフ』はSFホームコメディだ。まんが家山田錦の夫は宇宙人。寿命の尽きた故郷の星を離れて地球にやって来て、地球に住まわせてもらっているお礼に、世界平和、家内安全、天下太平のために活躍する。その名も天下太平。見た目は普通の地球人と変わらない「いい男」なのだが、宇宙人なので身体の構造が地球人とは少し違っている。ヒーローとして活躍すると体内にアルコールが合成され、へべれけになるのだ。また、誰かが助けを呼ぶ時、来ていた服を脱ぎ捨てて飛んでゆく。活躍中は制服のようなものを着ているのだが、活躍が終われば疲れ果て、へべれけにすっぽんぽんという情けない姿で、もといたところに倒れる羽目になる。


 錦が太平に初めて出会ったのは、太平がそんな状況で倒れていたときだった。おたがい一目ぼれで恋に落ち、結婚してみずほという小学生の娘もすでにいる。仕事も順調、家庭も平和。そんな錦の幸せな家庭を描いた、アットホームでちょっぴり変わった、ほのぼのどたばたホームコメディだ。


 そこに太平の父治平と自称太平の妹の楽ちゃんも加わって三世代同居となり、普通の家庭によくある問題や悩みがちょっぴり変わった状況や思い込みのもと展開されてゆく。また、突飛な授業が売り物のみずほの担任可奈子先生や、IQ200で思い込みが激しすぎて恐い担当編集者五百万石さんなど、個性的な登場人物が入り乱れて珍騒動を巻き起こす。しかしいつもいちゃいちゃしている天下太平と山田錦がとても微笑ましくて、幸せな家庭像となっている。


 作者本人がかなり楽しみながら描いたらしく、いい具合に肩の力が抜けていて、楽しめる。山田錦は作者の分身のようで、まんが家の私生活や仕事の様子がうかがえる。特にイメージを映像化する宇宙人の機械からもれ出す錦の妄想は、あまりにも少女漫画家らしくて面白かった。また清原漫画の哲学的なところも健在で、生や死や生殖のしくみなどが、小学生の素朴な好奇心として描かれていたりする。


 個人的にはみずほの担任の先生が主人公となっている番外篇「ある晴れた日に」が好きだ。普段みずほの通う小学校では、突飛な授業をして騒がせていた大場可奈子先生だが、私生活では思いのほか(?)まともで、とてもかわいらしい。見事ハッピーエンドの少女漫画らしい恋愛ものだが、好感が持てる。