『パーンの竜騎士(8)―竜の挑戦』(下)

 途中別の本をいろいろ読み返していたのでなかなか読み終わらなかった。


 パーンの竜騎士シリーズの第8弾の下巻。上巻で、南ノ大陸で発見された「アイヴァス」によりパーンは大きく変わりつつあった。糸胞根絶の可能性が提示され、それに向けての準備が進められる。各工舎の技術は飛躍的に向上し、優れた質の、人々が見たこともない新しい製品が、次々と開発された。しかし急激な変化への反発はどこでも起こるもので、「アイヴァス」を忌わしいものとする一派により破壊計画が進められる。上巻が「アイヴァス」にまつわる新しい知識とそれを授けられた者達の驚異や感動が主だったのに対し、下巻では「アイヴァス」はひっそりと影を潜め、むしろパーンでの社会的な動きが中心に描かれている。


 糸胞根絶の計画が持ち上がってから4年が過ぎ、準備は着々と進められた。「アイヴァス」の計画も、実行する人々の知識がようやく追い付いて来て明らかになった。しかし用心していたにも関わらず反対派の妨害工作は起こり、事体は緊迫する。困難の末にとうとう実施に移された計画は大規模で、竜騎士達が揃って出陣するさまはなかなか壮麗だった。


 このシリーズは竜と竜騎士という魅力的な道具立てからファンタジーっぽい感じがあるが、こうやって全体を通して読んでみると*1、根っこはSFだなぁと思う。頻繁には行われないものの、竜の特殊能力である時の跳躍は、時間のパラドックスの問題を扱ったものだし、外伝で扱われているパーンへの入植の話との関わりも切れないものとなっている。未知の知識の与え方にしても、もともと持っていたが廃れてしまったもののみを与え、そうでない技術や知識は与えないところ等、スタートレック他伝統的なSFの、地球外文明との接触の姿勢を忠実に踏襲している。


 また、騎士と名付けられてはいても、誰かに忠誠を捧げるわけでもなく土地を争ってお互いどうし戦うのでもない。どちらかというと竜騎士は、人々のために一丸となって糸胞という意志なき共通の敵と戦うボランティアである。その構造事体がすでに中世の社会とは違っている。しかもついには竜に乗った竜騎士達は、赤ノ星まで行ってしまうのである。宇宙服に身を固めて…。


 最後の竪琴師の老齢な長老ロビントン師と「アイヴァス」のかわす会話が印象深く、話をラストに向けて盛り上げている。「アイヴァス」は今回のみの登場としているところが潔くて良かったと思う。

“すべてのことには季節があり、そしてあめが下のすべてのわざには時がある”本文より

*1:ところどころ読んでない巻がある