『戦う都市』(上・下)

あらすじ

銀河系は外辺部、一つの宇宙ステーションがあった。ここを管理するのは人間の脳。シメオンという名のブレインだ。ステーション内の異状なら、自分の体のことのように察知する。近頃の彼はついてない。十数年来の相棒と別れ、代わりにやってきた女性ブローンとは反りが合わず悪戦苦闘の日々。おまけにステーション内の孤児をめぐって<中央>とトラブルを起こしてしまう。「養子縁組をしたシェルパーソンなんて聞いたことありません!」そこへ緊急事態発生。操縦もままならぬおんぼろ船がステーションめがけて突っ込んで来る! 人口1万5千の都市は始まって以来の大ピンチ!! シリーズ第三弾。

扉より

 歌う船シリーズの第三弾。今回は、宇宙船ではなく宇宙ステーションを管理している管理型ブレインが登場している。このシリーズにしては珍しく男性のブレインで、軍事ヲタクな武器コレクター。こういった毛色の違った主人公が登場するあたり、共著ならではの味が出ていると思う。この作品も前作との関連はほとんどないので、独立した話として楽しめる。このシリーズはどちらかというと女性向きといった感じが強いが、この作品は一番男性向きだと思う。


 アモス率いるレジスタンスは、かなり旧式のブレインシップで命からがら逃げていた。宇宙船のコントロールは失われ、乗員も酸素節約のために壊れかけた装置で冷凍睡眠するといった窮状だった。彼らの故郷、辺境の惑星ベセルは、独自の宗教が根強く信仰されている閉鎖的な社会だった。しかし獰猛な海賊コルナー人達から襲撃を受け、壊滅しかけていた。アモス達はコルナー艦隊に追われながら、なんとか宇宙ステーション SSS-900-C にたどり着く。そこはブレイン、シメオンによって管理されているステーションだった。


 シメオンは長年の相棒だったブローンに引退され、後任のシャンナ・ハップを迎えていた。彼女はシメオンの配慮ないわがままのせいで、希望の任地を不意にしていた。その上、初対面でシメオンの発揮したオヤジっぷりが彼女の逆鱗に触れる。


 一方、ステーションの機関部で浮浪児ジョートが発見される。彼女は叔父に借金のかたとして売られ、彼女を買った酔いどれ船長から逃げ出して、ステーションの裏側に住み着いていた。機械類やプログラミングに長けたジョートは、立ち入り禁止区域でセンサーを撹乱しながら、少年に扮して暮らしていた。シャンナの勧めでシメオンは彼女を養子に引き取ろうと手続きする。


 シメオンとシャンナは音楽に共通の趣味を見つけ、ようやく正常なパートナーとして信頼関係を築きつつあった。アモス達の宇宙船がステーションに突っ込んで来たのはそんな時だった。なんとか食い止めたものの、後からコルナー人達が追い掛けて来ているという。


 コルナー人は自らを聖なる種族と称していたが、獰猛で略奪と破壊を繰り返すしつこい害虫の様な種族だった。また病気等の耐性も強く、弱者は淘汰されるべきという考え方を持っていた。〈中央〉の救援艦隊が駆け付けるまで、ステーションは現在あるものだけでコルナー人と対決せねばならない。


 貴重品や食糧、シメオンの集めた武器コレクション等を隠し、子供や病人は避難させ、コルナー人の襲来に備える。ブレインとブローンのシメオンとシャンナ、生存本能逞しい何でも屋ジョート、個性的なステーションの住人達、ベセルの美男子アモスや戦士サイードなどが中心となって、コルナー人を罠にかけ、出し抜き、活躍する。


 最初は反りのあわなかったシャンナとシメオンだが、次第にお互いの長所とプライバシーをを認めて信頼を深めていく。やってきたコルナー人は極悪非道で、しぶとく、嫌らしい。短命だが過酷な環境で生き延びて来た種族だけあって、少々のことでは撃退できそうにない。


 ステーションで戦う人々は、彼らに痛めつけられながらも、屈せず反撃していく。悪ガキのような威勢のいいジョートも大活躍で、いい味を出している。次から次へと起こる事件が緊迫感に満ちている。ラストは無気味な余韻を漂わせている。


 続編として『復讐の船』が刊行されている。本作で活躍したジョートが、成長して宇宙船の船長として活躍する話である。