『終わりなき平和』

あらすじ

神経接続による遠隔歩兵戦闘体での戦いが実現した近未来。連合国は中米の地域紛争に対し、十人の兵士が繋がりあって操作するこの兵器を投入し絶大な戦果をあげていた。一方このとき人類は、木星上空に想像を絶する規模の粒子加速機を建造し、宇宙の始まりを再現する実験に乗り出していた。ヒューゴー賞ネビュラ賞・キャンベル記念賞受賞

目録より

 ナノ鍛造機により物が何でも造り出せる連合軍と、その技術の使用を制限され食べるために働き続ける中南米やアフリカとの間で、長期間に渡って戦争が行われていた。


 主人公ジュリアンはアメリカの機械士で、頭にジャックを持ち、ケージに入り、遠隔操作で戦闘ロボットを操って戦っている。通常は小隊の10人全員と精神移入で精神・肉体感覚・記憶を共有し、考えたこと、感じたことが全てお互い筒抜けとなる。それはある意味セックスよりも深いつながりで、一体感があるため、切り離されると深い喪失感を伴う。兵士達は1か月のうち10日間をそうして他人と接続されて兵につき、残りの日数を切り離されて本来の職業に就いて民間人として仕事をしている。戦争で小隊のメンバーが死んだりすると、自分の一部が死んでしまったように感じ深い喪失感を味わう。


 ジュリアンの一人称で話が展開される部分と三人称で展開される部分が入り交じっていて、最初とまどった。恋人のブレイズは接続のためのジャックを持っていないため、海外で手術を受けるが失敗。機能が失われる前のごく短時間にジュリアンと接続し、深い共感を得る。かたやジュリアンは、これまで実際の戦闘で人を殺したことはなかったのだが、暴動の鎮圧に失敗してはずみで一般人の少年を殺してしまい、深く絶望する。


 そんな時、ブレイズの手伝っている研究により、木星で行われている実験プロジェクト「ジュピター計画」が世界を滅ぼす危機を孕んでいることが明らかとなった。しかもそれが戦争で使用される可能性があるため、人類全員が平和主義にならないと危険な状態になる。


 精神移入を2週間続けていると他人の事も自分の傷みとして感じるようになるため、総じて「人間化」して暴力的行為ができなくなる、とジュリアン達の友達で、精神移入による共感の研究を進めている教授が明らかにする。彼らは軍のジャック持ちを手始めに、無血革命をおこす決意を固める。一方で、終末主義者の危ない教義に毒されたものたちが、ジュピター計画の阻止を妨害しようと暗躍しはじめ、物語は一気に展開して行く。


 自分と他人を隔てる壁がなくなる時、人はどう変わるのか。

「それは人間とは言えないんじゃないか。」「人間の半分は最初からManじゃないわよ。」本文より

一ヶ月のうち10日も黒人の肉体に入って過ごしていれば黒人が劣っているとは考えなくなるものだ。本文より


 この作品は1975年に発表された『終りなき戦い』という作品で描かれた戦争を別の側面から見て書かれたものだそうだ。時代的な手直しを加えて、1996年に本作が発表された。