『天冥の標9 ヒトであるヒトとないヒトと』(Part1・Part2)

Mメニー・Mメニー・Sシープを立て直すために、皆で力を合わせるシリーズ第9弾のPart1では、ラゴスが記憶を取り戻し、《救世群ラクティス》がセレスで何をしているのかが明らかになる。カドムたちは地表への旅を終え、復活を遂げたアクリラも戻ってくる。

Part2では、イサリがハニカムで、カドムやアクリラがMMSで、停戦へ向けて準備を進める。《救世群ラクティス》が始めた戦争は、300年かけてようやく停戦へとこぎつけた。しかし、外部にはヒトではないヒトたちが待ち構えていた。

『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと』(Part1)

あらすじ

カドム、イサリらは、ラゴスの記憶を取り戻すべく、セレスの地表に横たわるというシェパード号をめざしていた。それは。メニー・メニー・シープ世界成立の歴史をたどる旅でもあった。しかし、かつてのセレス・シティの廃墟に到達した彼らを、倫理兵器たる人型機械の群れが襲う。いっぽう、新民主政府大統領のエランカは、スキットルら《恋人たちラバーズ》の協力も得て、《救世群ラクティス》への反転攻勢に転ずるが――シリーズ第9巻前篇

カバーより

ヒルに連れ去られたゲルトールトは、ハニカムで懲罰房に入れられていたが、施設の改修などで役立ってみせ、やがて監視のスダカの信頼を得た。どうやらドックと呼ばれる区画が軍事上の重要施設のようだった。足が不自由な老婦人の助けを得て、ゲルトはドックに侵入した。広大な施設を破壊しようと小型戦闘機を激突させる。しかし、捕獲されてミヒルの元に連れて行かれた。だが、《救世群ラクティス》はMMSと戦っているのではなく、他の何者かと宇宙空間で戦っていた。

カドムたちを助けた2人組アッシュとルッツは、太陽系から来た艦隊の偵察部隊のロボットだった。大規模な艦隊がセレスの状況を確認するために迫ってきていた。2人はカドムたちの旅に護衛役として同行する。

カドム一行はアイネイアの残した座標を得てシェパード号を見つけ出した。記憶を整理して古い記憶を取り戻したラゴスは、普通の人間だった《救世群ラクティス》が、硬殻化して戦争を仕掛け、元の身体に戻れなくなってしまった経緯を説明し始めた。彼らを人間の姿に戻すための設計図セルマップは、双子座ミュー星のカルミアンの母星へ送られていた。

ラゴスの説明途中、《救世群ラクティス》の戦闘機を奪って逃げ出したアクリラから救助要請が入った。一行はアクリラが生きていたことを喜び、救助する。アクリラは逃げる際、火を噴く火山を見ていた。このことからもラゴスは、《救世群ラクティス》がセレスを宇宙船に仕立て、双子座ミュー星のカルミアンの母星へ向かったと推測した。

自力でミスン族としての自我を見出し女王となったリリーは、母星へ通信で呼びかけていたが、イスミスン族の総女王オンネキッツから連絡を受けた。母星への帰還許可を求めたが、リリーたちはまだ当初の目標を達成できていないとして帰還を拒まれ、栄え増えるよう指示された。

リリーは新しい方針として繁殖を掲げた。彼女たちは増えることで高度な知性を保つことができた。子供はハニカム側で生まれて送り込まれていたため、繁殖可能な個体がハニカム側にいるはずだった。雄を得るためにハニカムへ行く必要があった。

この方針変更をクルミがエランカに伝えた。エランカは、カンミアはどんな国を目指すのか尋ねた。人間の求める豊かな国と未来には、カンミアや《恋人たちラバーズ》をも含むことができた。カンミアが目指す豊かな国と未来は、どんなものなのか。その問いをクルミ尊いものと考えた。

カドム一行はMMSに戻ることになった。MMSから迎えに来る航空警邏艦との合流地点へ向かう途中、イサリは一行と別れて《救世群ラクティス》の元へ戻って行った。地球から来る大規模な艦隊に攻撃されないよう、イサリは同胞を説得しようと考えていた。同行したがるカドムにイサリは、MMSで受け入れ先を作ってほしいと頼む。

ルッツたちが送った報告に紛れて、セレスのダダーは2惑星天体P連合軍A艦隊に接触した。艦隊にはパラスから来たダダーが潜んでいた。ふたつのダダーは300年ぶりに副意識流どうしで情報を交換した。地球では人類が滅亡しかけていた。しかし、セレスのダダーはMMSの人々がこの状況を打開できると信じていた。

これでようやくこの惑星の外側の状況が明らかになった。セレスは移動しているようだとは思っていたが、当初は地球から遠く離れた植民地が舞台だと思っていたので、その場所から地球へ向けて移動しているのかと思っていた。実際には逆で、太陽系から双子座ミュー星へと向かっていた。人間の身体を取り戻すためとはいえ、冷凍睡眠で300年もかけてそんなはるか遠くまで向かってしまうとは、《救世群ラクティス》の行動力恐るべしだ。

『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと』(Part2)

あらすじ

セレス地表で世界の真実を知ったカドムら一行は、再会したアクリラとともにメニー・メニー・シープへの帰還を果たした。そこでは新政府大統領のエランカが、《救世群ラクティス》との死闘を繰り広げつつ議会を解散、新たな統治の道を探ろうとしていた。いっぽうカドムらと別れ、《救世群ラクティス》のハニカムで宥和の道を探るイサリにも意外な出会いが――。あまりに儚い方舟のなか、数多のヒトたちの運命が交錯する、シリーズ第9巻完結篇

カバーより

MMSに帰還したカドムは旅の成果をエランカたち新政府に報告した。カンミアやルッツからの情報も総合すると、双子座ミュー星に近づいたセレスはすでに減速態勢に入り、向かう先で《救世群ラクティス》はもう宇宙戦争を始めていた。エランカとカドムは、飛び入り参加したダダーからの知識も加えて話し合い、今後の方針を決定した。

新政府軍によって首都奪還作戦が実施され、咀嚼者フェロシアンが撤退を始めた。弾薬工場を奪還し、フォートピークを攻め上る。熾烈な戦いの末、臨時総督の居室までは確保したが、電源室へ続く竪穴は手強い敵が守っていた。

一方イサリは、逃げた《酸素いらずアンチ・オックス》の捜索に来たアシュムに捕らえられ、ハニカムへ連れて行かれた。軟禁されていたが1人のカルミアンに助けられ、ハニカム内に広がるベンガル・フィッグの森へ匿われた。サバイブドと名乗るそのカルミアンは雄だった。彼によると、ドロテアのミスチフが300年前から《救世群ラクティス》に取り入り支配していた。彼はイサリにカルミアンの新しい女王を探す手助けを頼む。イサリは代わりに自分の仕事を手伝ってもらう。

やがて、イサリは皇帝とは異なる意見を持つ人々の信頼を得た。太陽系から艦隊が接近していることを警告する。

ラゴスは《恋人たちラバーズ》の本質について考えていた。本来《恋人たちラバーズ》は人間に従うことで幸福を感じるように作られていた。しかし、その立場を変えることはできないか、彼らはずっと模索していた。ラゴスが思いついたのは、従うためのヒトを《恋人たちラバーズ》が規定できないかという裏技だった。

MMSで真実を広めて回っていたカドムは、地方都市で冥王斑患者の治療に協力していた。治療の合間に、立てこもっていたはぐれ咀嚼者フェロシアンの説得を試みる。ダダーの声を聞くことのできる羊飼いの子供のゴフリが、ダダーを通じて通訳し、治療薬のことを伝えた。保菌者でなくなるこの治療薬は、その咀嚼者フェロシアンにとっても衝撃だった。他のはぐれ咀嚼者フェロシアンを説得するよう頼む。

フォートピークの竪穴では、MMSの兵士が、電源室を守る非常に手強い敵スダカに苦戦していた。新政府はそこに、カドムやクルミ、投降した咀嚼者フェロシアンなどで構成された交渉団を送り込んだ。カドムが《連絡医師団リエゾン・ドクター》として交渉を始めると、クルミたちがハニカム側のカルミアンを見つけて絡み始めた。スダカは人質を取られて電源室の死守を命じられていたため説得には応じなかったが、カルミアンたちによって事態は一瞬で大きく変わっていた。

MMSに戻って以来、アクリラたち《海の一統アンチヨークス》は北極で着々と準備を進めていた。ルッツたちの協力も取り付けて、イサリから連絡があればすぐに動けるよう手はずを整えていた。事態の急変を受けて、アクリラ率いるMMS宇宙軍カバラは、カルミアンとタイミングを合わせ、ルッツたちのSRボートで一気に南極のハニカムへ攻め込んだ。イサリはまだ準備が整っていなかったが、自分がすべきことに集中する。

MMS宇宙軍の攻撃と内部からの告発により、イサリは《救世群ラクティス》の議長代行に就任した。アシュムたちは逃げ出した。逃走経路に待ち受けていたイサリは攻撃したが、二人に逃げられてしまった。《救世群ラクティス》はイサリの名のもとに停戦し、電源室も明け渡す。MMSには4ヶ月ぶりに人工的な日の出が訪れた。

セレス北極に用意された拠点「闘鶏場コックピット」で、MMS新政府のエランカ・キドゥルー、《救世群ラクティス》の副議長エファーミア・シュタンドーレ、2惑星天体P連合軍A艦隊副司令官のバラトゥン・コルホーネンの三者で協議が行われた。MMSと《救世群ラクティス》は手を結び、セレス内外の敵からの保護を2PA艦隊に要請した。セレス内部の敵はドロテアのミスチフハニカムから逃走したアシュムたち、外部の敵はまだ正体不明の宇宙勢力だった。

折しも、何者かが2PA艦隊の先遣隊を挨拶代わりに撃破してみせた。ラストはカルミアンの惑星近辺に集結した大勢の宇宙種族がセレスや2PA艦隊を待ち構えているというものものしいシーンで終了する。

ようやく人間同士の戦いを終わらせることに成功したカドムたち。しかし、まだたくさんの異星人が行く先には待ち構えているし、地球の様子もはっきりとはわからない。最大の敵であるミスチフをどう撃退するのかも未だ策はなく、前途はまだまだ多難である。