『天冥の標3 アウレーリア一統』

シリーズ第3弾は、舞台は宇宙へと飛び出してスペースオペラ風に描かれている。おそらく宇宙軍カバラの物語だ。

宇宙海賊エルゴゾーンとそれを取り締まる《酸素いらずアンチ・オックス》との間で熾烈な戦いが繰り広げられる。これに木星で見つかった謎の遺跡ドロテア・ワットの争奪戦が加わり、檜沢千茅あいざわちかやの子孫らしきグレア・アイザワが、素人ならではの危なっかしさで立ち回る。

また、シリーズ第1弾に登場したアクリラそっくりのアダムス・アウレーリアと、カドムそっくりの食えない中年男瀬秋樹野セアキ・ジュノが登場し、ジュノのAIフェオドールがロボットの身体を手に入れて活躍する。

『天冥の標Ⅲ アウレーリア一統』

あらすじ

西暦2310年、小惑星帯を中心に太陽系内に広がった人類のなかでも、ノイジーラント大主教国は肉体改造により真空に適応した《酸素いらず》の国だった。海賊狩りの任にあたる強襲砲艦エスレルの艦長サー・アダムス・アウレーリアは、小惑星エウレカに暮らす救世群の人々と出会う。伝説の動力炉ドロテアに繋がる報告書を奪われたという彼らの依頼で、アダムスらは海賊の行方を追うことになるが……。シリーズ第3巻。

カバーより

2249年、木星の大気中に浮かぶ巨大な遺跡ドロテア・ワットの調査が行われていた。8500年前のもので、明らかに人類以外の何者かによって建造されたこの遺跡は、内部は黒い蔓に覆われ、強力なエネルギーを隠し持っていた。調査隊を指揮していたドロテア・カルマハラップ少将は裏切って、ドロテア・ワットを奪ってどこかへ隠してしまった。

時は流れ、2310年。ノイジーラント大主教国のサー・アダムス・アウレーリア艦長は、強襲砲艦エスレルで、海賊エルゴゾーンが襲った《救世群ラクティス》が住む小惑星エウレカへ向かった。海賊はドロテア報告書レポートを奪っていた。そこには核融合炉数十基分に匹敵する動力炉ドロテア・ワットのありかが書かれているはずだった。

ノイジーラントの人々は、国の成り立ちも含めて独特だ。肉体を改造していて、体内に多量の電気をためることができる。体内電気で二酸化炭素を分解するため、酸素呼吸を必要としない。そのため《酸素いらずアンチ・オックス》と呼ばれていた。2222年に結ばれた第三次拡張ジュネーブ協定クアッド・ツーに基づき、彼らは主に傭兵として生計を立てていた。

彼らは身体能力を活かして艦内を酸素のない状態にして戦い、身体にためた電気を使ってコイルガンという電磁誘導砲をぶっ放す。アダムスは見た目は16歳で、中性的で美しく、正装のキルトスカートを翻し、レースにタイツという出で立ちで戦う姿は海賊も見惚れるほどだった。また、エスレルにはシリーズ第1弾でも登場したロボットメイドのカヨも乗り込んでいた。

準惑星セレスで聞き込みをしていたアダムスに、瀬秋樹野セアキ・ジュノが話しかけてきた。何者かに襲われかけたアダムスを助ける。《医師団リエゾン・ドクター》として調査を担当しているジュノは、《救世群ラクティス》のことを心配していた。ジュノはエスレルに乗り込みアダムスたちに同行する。

海賊エルゴゾーンの首領イシスをあぶり出すために、ノイジーラントはこれまで各国が主張してきた軌道専守権を踏み越えて、海賊を片っ端から拿捕し始めた。そのためそれらの国からの苦情も増えた。そんな中、ジュノへの褒賞としてジュノのAIフェオドールが操れる石造りのボディが完成し、エスレルへ届いた。

だがおまけが付いてきた。《救世群ラクティス》の議長グレア・アイザワが、許可を取ってコンテナに入り無理やり乗り込んできた。グレアはイシスに報いを受けさせたがっていた。

イシスとノイジーラントとの戦いは次第に熾烈になってゆく。ノイジーラントの小惑星セナーセーも大きな被害を受けた。悲嘆に暮れるアダムスを見限って、グレアは出ていった。さらに彼女は貨物船に“デイモスの蛇口スピゴット”と呼ばれる大砲を積み込み、木星へと向かう。

グレアとイシスはドロテア・ワットに入り込み、争奪戦を繰り広げる。それをアダムスやジュノが追う。グレアは宇宙服姿の何かを“ドロテア”だと紹介し、それに命じて“デイモスの蛇口スピゴット”を撃って見せた。

グレアの希望とは裏腹に、《救世群ラクティス》はクアッド・ツーに違反したとされ、こうした違反に裁定を下す組織であるロイズ非分極保険社団がドロテア・ワットを監視下に置いた。また、《救世群ラクティス》は暴走した罰として自治共同体の資格が剥奪され、ノイジーラントの保護観察下に置かれてしまった。それでもこれは手加減された結果だった。

フェオドールのストリームを失った被展開体のダダーは、改造羊の体内に埋め込まれた機械に潜り込んでミスチフから隠れた。

今回は宇宙での戦闘の様子が面白い。強襲砲艦エスレルでの接舷の仕方や、アダムスたちの華麗な戦闘が読み応えがある。また、イシスはアダムスにおまえも海賊だと籠絡しようとした。海賊であることと海賊的であることとの違いが考察されていて興味深い。

とはいえ、海賊との戦闘は命がけであり、多くの人々が亡くなった。アダムスも大切な人を亡くす。また、アダムスが後に恒星間有人探検船に付ける名前も、この時に犠牲になった部下の名前である。