『ペルセウス座流星群』

あらすじ

“発見者”の名を持つ謎めいた古書店を接点として、広大無辺な宇宙とささやかな日々の営みが交錯する。古書、望遠鏡、チェス盤、鏡―ささいなきっかけがも たらす非日常への誘いは、やがて秘められた世界、正気と狂気の狭間へと、人々を導いてゆく。ヒューゴー賞星雲賞を受賞した『時間封鎖』の著者が新たな側 面を見せる、時に妖しく、時に幻想的に描かれた、珠玉の連作短編集。

カバーより
収録作品

アブラハムの森」「ペルセウス座流星群」「街の中の街」「観測者」「薬剤の使用に関する約定書」「寝室の窓から月を愛でるユリシーズ」「プラトンの鏡」「無限による分割」「パール・ベイビー」

 どちらかというとホラー寄りなSFの連作短篇集。サブタイトルに「ファインダーズ古書店より」とあり、トロントにある少し不思議なこの古書店を軸に、それぞれの短篇がつながっている。といっても、その古書店で物を買った程度のつながりしかない作品もあるという、ゆるいつながりだ。各作品の内容は、巻末の解説でとてもうまく紹介されている。


 『時間封鎖』三部作(感想:『時間封鎖』『無限記憶』『連環宇宙』)など、ロバート・チャールズ・ウィルスンの作品はこれまで長篇しか読んでいなかったが、短篇もなかなかよくまとまっている。むしろこの作者はこういった短篇の方が向いていると思えるほどだ。


 だが、長篇にしても短篇にしてもあまり明るい印象のものがない。閉塞的で、神経質そうで、切迫感がある。これは終末的な題材を扱っているせいかと思っていたが、本作ではそれがさらに強調されている気がする。おそらくこれがこの作者の持ち味なんだろう。とりわけ最初に収録されている「アブラハムの森」は、子供が主人公で心温まる幻想的な物語になるのかと思いきや、予想外に辛辣な方向へと展開していて驚いた。


 また、実際には何が起こっているのかよくわからない話が多い。登場人物が思い込んでいるだけなのか、幻想なのか、実際に不思議なことが起こっているのか判別がつかない。なんだかよくわからないまま終わってしまい、説明すらない作品もいくつかある。こんな漠然とした題材で、よくこれだけ話をまとめられたものだ。もっとも、幻想怪奇小説としては、あまりに詳しく語られるてしまうと興ざめなのだろう。


 しかもやたらと小難しい。「新しい宗教を発明する」というお題でコンテストして賭けに興じる人々や、新しい勢力圏ドメインへと進出しはじめている人類の話など、SFとして読むにしても小難しい。これをパーティーで話題にして、盛り上がれるものなんだろうか。


 SF的には、「無限による分割」がいきなり壮大な物語へと変化していて面白かった。こんな短篇にここまで詰め込めるのがすごい。円環チェスが興味深い「アブラハムの森」も好みだ。これを知って読むと、他の作品に出てくる店主への見方が変わってくる。はたしてこの古書店はいつの時代から続いているのだろうか。