『連環宇宙』
- 著者:ロバート・チャールズ・ウィルスン
- 訳者:茂木健
- 出版:東京創元社
- ISBN:9784488706067
- お気に入り度:★★★★★
『時間封鎖』(感想はこちら)、『無限記憶』(感想はこちら)ときて、ついに完結篇『連環宇宙』。ちょっと時間があいてしまったので、前作のラストがどんなだったかすっかり忘れてしまっている…。
前作のラストで仮定体の瓦礫にうずもれてしまったタークと少年アイザック。本作ではこの二人が1万年後のイクウェイトリアに復活する。そして連れてこられたのは、この惑星の海に浮かぶ、まるで群島のような巨大な船であり、都市国家でもあるヴォックスだった。
物語は、現代のパートと未来のパートに分かれて進行する。現代のパートは、『時間封鎖』の後、『無限記憶』の前にあたり、精神科医のサンドラと巡査のボースが主役となって活躍する。
サンドラの勤める医療保護センターへ、警官のボースがオーリンを連れてやってきた。サンドラは担当医となりオーリンの精神鑑定をする。オーリンは子どもの頃から頭の中に奇妙な声が聞こえていて、それをノートに綴っていた。サンドラはボースに頼まれてノートに書かれたその物語を読む。しかし、病院では何やら不審な動きがあり、やがてサンドラはオーリンの担当から外されてしまった。彼女はオーリンに関わることを一切禁止されてしまう。
一方、未来のパートでは、ヴォックスに目覚めたタークと、タークの通訳の女性の手記で語られる。前作で地球は、仮定体が建造した巨大なアーチでイクウェイトリアと海でつながっていた。本作では、こうしたアーチでつながれた居住惑星は1万年後には12個になっていて、
オーリンの綴る物語には、彼自身も登場する。物語の中のオーリンは悪党で、現実とは少し異なっている。ここで描かれている事件をタークが起こさないとすれば、タークははたしてリーサと一緒にイクウェイトリア大陸に行くのだろうか。ちょっとタイムパラドックスめいていて興味深い。サンドラたちは、オーリンの綴る未来の物語をフィクションだと考える。もちろん普通はそれが当然だろうけれど、こうしたSFを読んでいると、「もっとSF的な可能性も考えようよ」とはがゆくなってしまう。
ラストのアイザックによる物語は、膨大な時間を貫いて見渡す壮大な物語となっていて面白かった。また、超巨大な船であるヴォックスが、宇宙船としても機能していて面白かった。壮大な設定の一方で、登場人物たちはみな、いやおうなく訪れる変化に思い悩んだり、家族の問題に対処したりと、その時代時代を懸命に生きている。人びとの営みが精緻に描かれていることで、仮定体の無機質さがより際立っているように思う。最近では、こうした壮大な設定のSFをあまりみかけなくなってきているので、作者には今後もこうした作品をたくさん書いてもらいたいものだ。