『連環宇宙』

あらすじ

時間封鎖を乗り越えて繁栄を謳歌する地球人類。謎めいた少年が持つノートには、1万年後の未来に復活した人人による手記が綴られていた。少年の秘密を追う精神科医サンドラたちは不自然な妨害に遭う。一方、手記の中では、12個の居住惑星を連結した〈連環世界〉を旅する移動都市が“仮定体”の真実を解き明かそうと、荒廃した地球をめざしていた。《時間封鎖》三部作の完結編。

カバーより

 『時間封鎖』(感想はこちら)、『無限記憶』(感想はこちら)ときて、ついに完結篇『連環宇宙』。ちょっと時間があいてしまったので、前作のラストがどんなだったかすっかり忘れてしまっている…。


 前作のラストで仮定体の瓦礫にうずもれてしまったタークと少年アイザック。本作ではこの二人が1万年後のイクウェイトリアに復活する。そして連れてこられたのは、この惑星の海に浮かぶ、まるで群島のような巨大な船であり、都市国家でもあるヴォックスだった。


 物語は、現代のパートと未来のパートに分かれて進行する。現代のパートは、『時間封鎖』の後、『無限記憶』の前にあたり、精神科医のサンドラと巡査のボースが主役となって活躍する。


 サンドラの勤める医療保護センターへ、警官のボースがオーリンを連れてやってきた。サンドラは担当医となりオーリンの精神鑑定をする。オーリンは子どもの頃から頭の中に奇妙な声が聞こえていて、それをノートに綴っていた。サンドラはボースに頼まれてノートに書かれたその物語を読む。しかし、病院では何やら不審な動きがあり、やがてサンドラはオーリンの担当から外されてしまった。彼女はオーリンに関わることを一切禁止されてしまう。


 一方、未来のパートでは、ヴォックスに目覚めたタークと、タークの通訳の女性の手記で語られる。前作で地球は、仮定体が建造した巨大なアーチでイクウェイトリアと海でつながっていた。本作では、こうしたアーチでつながれた居住惑星は1万年後には12個になっていて、連環世界リング・オブ・ワールズと呼ばれている。ヴォックスには仮定体を信仰する人びとが住んでいて、こうした4つの惑星を500年かけて航海してきた。やがて地球にたどり着く。1万年後の未来の地球がどうなっているのか、仮定体はいったいなんだったのか、ターク、アイザック、アリスンがこの荒廃した地球でどうなるのかといったところが見どころだ。また、未来のタークたちの物語をどうしてオーリンが綴っているのか、この関連も気になるところだ。


 オーリンの綴る物語には、彼自身も登場する。物語の中のオーリンは悪党で、現実とは少し異なっている。ここで描かれている事件をタークが起こさないとすれば、タークははたしてリーサと一緒にイクウェイトリア大陸に行くのだろうか。ちょっとタイムパラドックスめいていて興味深い。サンドラたちは、オーリンの綴る未来の物語をフィクションだと考える。もちろん普通はそれが当然だろうけれど、こうしたSFを読んでいると、「もっとSF的な可能性も考えようよ」とはがゆくなってしまう。


 ラストのアイザックによる物語は、膨大な時間を貫いて見渡す壮大な物語となっていて面白かった。また、超巨大な船であるヴォックスが、宇宙船としても機能していて面白かった。壮大な設定の一方で、登場人物たちはみな、いやおうなく訪れる変化に思い悩んだり、家族の問題に対処したりと、その時代時代を懸命に生きている。人びとの営みが精緻に描かれていることで、仮定体の無機質さがより際立っているように思う。最近では、こうした壮大な設定のSFをあまりみかけなくなってきているので、作者には今後もこうした作品をたくさん書いてもらいたいものだ。