『ミレニアム2 火と戯れる女』『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』

あらすじ

女性調査員リスベットにたたきのめされた後見人のビュルマンは復讐を誓い、彼女を憎む人物に連絡を取る。そして彼女を拉致する計画が動き始めた。その頃ミカエルらはジャーナリストのダグと恋人ミアが進める人身売買と強制売春の調査をもとに、『ミレニアム』の特集号と書籍の刊行を決定する。ダグの調査では背後にザラという謎の人物がいるようだ。リスベットも独自にザラを追うが、彼女の拉致を図る者たちが襲撃された!

カバーより

あらすじ

リスベットは襲撃者たちを撃退した。だがダグとミアが殺され、現場でリスベットの指紋がついた拳銃が発見された。さらに意外な人物の死体も見つかり、彼女は連続殺人の容疑者として指名手配される。リスベットが犯人と思えないミカエルは彼女と連絡を取り、事件の調査を進める。やがてリスベットは、ある重大な情報をつかんだ。そしてミカエルはザラの正体を知るが……リスベットの衝撃的な過去が明かされる激動の第2部。

カバーより

あらすじ

宿敵ザラチェンコと対決したリスベットは、相手に重傷を負わせるが、自らも瀕死の状態に陥った。だが、二人とも病院に送られ、一命を取りとめる。この事件は、ザラチェンコと深い関係を持つ闇の組織・公安警察特別分析班の存在と、その秘密活動が明るみに出る危険性をもたらした。危機感を募らせた元班長は班のメンバーを集め、秘密を守る計画を立案する。その中には、リスベットの口を封じる卑劣な方策も含まれていた。

カバーより

あらすじ

リスベットは回復しつつあった。ミカエルは様々な罪を着せられた彼女を救うため、仲間を集めて行動を開始する。だが、特別分析班は、斑の秘密に関わる者たちの抹殺を始めた。一方ミカエルは病院内のリスベットと密かに連絡を取り、有益な情報を得ようとする。そして、特別分析班の実態を調べる公安警察と手を組み、巨大な陰謀の解明に挑む。やがて始まるリスベットの裁判の行方は? 脅威のミステリ三部作、ついに完結!

カバーより

 『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』(感想はこちら)に続く第二部と第三部。第一部は完結していたのでこれだけ読んでも大丈夫だったが、第二部『ミレニアム2 火と戯れる女』と第三部『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』は密接につながっている。しかも、ここで切るかと驚くほど、つづきが気になる状態で第二部のラストをむかえるので、第三部までつづけて一気に読みたいところだ。


 第一部は容疑者は多かったものの、ほとんどがミカエルとリスベットの視点からしか描かれていなかったためわかりやすかった。だが、第二部と第三部では、登場人物が一気に増えて複雑になった。まず、犯人側からの視点が加わった。さらに事件を捜査する警察や検察、公安警察といった組織の人々の視点も加わった。彼らは同じ組織に属していても、それぞれの思惑や立場が異なっている。捜査が進むにつれて、リスベットの主張を信じる側と信じない側にわかれてくるため、複雑さが増している。


 第一部で優秀な調査員として手腕を発揮したリスベット。良くも悪くも彼女の特殊さが際立っていたが、今回は彼女の家庭の事情が明かされる。これがあまりに特殊で過激だ。彼女は悪質な陰謀に踏みにじられた過去を背負っていて、現在もそれにより実害をこうむり続けていた。


 ヴァンゲル家の事件から2年後、巨額の資産を手にしたリスベットは、海外を放浪したのちスウェーデンに戻ってきた。かつて彼女は後見人のビュルマン弁護士に卑劣な行為をされ、これに手ひどく反撃した。それを逆恨みしたビュルマンは、戻ってきた彼女に報復しようと彼女の敵と手を結ぶ。バイクに乗った悪漢達や、金髪の巨漢につけ狙われるリスベット。


 一方、ミカエルは、女性を人身売買して強制売春させる売春斡旋マフィアについての特集を、雑誌『ミレニアム』で組もうと準備を進めていた。フリージャーナリストのダグ・スヴェンソンが恋人のミアの論文とあわせて取材しているこのネタは、売買春規制関係の法案作成に携わった役人をはじめ、警察官や弁護士、ジャーナリストなどが顧客にいるというスキャンダラスなものだった。しかし、被害者達は報復を恐れて口を開こうとしない。彼女達がもっとも恐れていたのは「ザラ」という通り名でのみ知られる人物だった。


 こうした背景の中、2件の殺人事件が起こり、3人が殺された。これに巻き込まれてしまったミカエルとリスベット。当初二つの事件は無関係と思われたが、ミカエルとリスベットのラインを通じてこの二つの事件がつながった。偏見にゆがんだ警察の捜査は大きく的を外して展開し、ミカエルが間違いを指摘しても聞き入れようとしない。


 何十年も前に亡命してきたスパイがからみ、その隠蔽をもくろむ公的機関は暴走し、事態は混迷を深めてゆく。独自に捜査を進めるミカエル。それに先んじて、諸悪の根源と対決するために単身乗り込むリスベット。リスベットのおそるべきしぶとさに脱帽だ。




 第三部『ミレニアム 3 眠れる女と狂卓の騎士』は、法廷ミステリー。襲ってきた二人のバイク乗りを撃退したことで起訴されたリスベット。彼女の容疑を晴らすため、多くの人々が奮闘する。リスベットに多大な借りのあるミカエルは、この裁判に勝つために率先して戦略を練り、人材を集めて私的な組織をつくりあげた。リスベットに好意的なお馴染みの人々からなるこの会が、タイトルにある「狂卓の騎士」だ。


 一方、この第三部は、偏見や差別などと戦う女性達の群像でもある。彼女達の戦いはさまざまだ。女性に対する暴力といった犯罪レベルのものから、仕事で同僚の男性に足を引っ張られたりセクハラされるといった日常的なもの、女性より男性の方が社会的な信頼を得やすいという習慣的なもの、ボクシングを習おうとするひ弱そうに見える少女をあざ笑うといった偏見までも、ここでは問題提起されている。また、冒頭や章の間には、アマゾネスなど、女性兵士に関する記事が載せられていて興味深い。


 本題からそれてエリカの移籍やそれに伴うゴタゴタなどまで丁寧に描かれているのは、こうした戦う女性達を群像として描きたかったからだと私は思う。タイトルの「騎士」には、名もないけれど勇敢に戦う女性たちのこともおそらく含まれているのだろう。ミカエルの書いたヴェンネルストレム告発のスクープをTVのニュースでいち早く取り上げたTV4の女性記者、初期の段階からミカエルの推理を支持していた女性捜査官ソーニャ、大衆紙『SMP』を立て直すために経営にまで切り込み孤軍奮闘するエリカ、ストーカーされるエリカを護衛し適切なアドバイスを与えるミルトン・セキュリティーのスサンヌ、男性にも勝るほど鍛え抜いた身体を持ち歯に衣着せぬ進言をする優秀な捜査官のモニカなど、何人もの女性達の地道な戦いが紹介されている。彼女達は能力が高く勤勉で、固定観念にしばられずに真実を見ることができる。


 そんな戦う女性達の中でも今回一番活躍するのは、ミカエルの妹のアニカだ。女性問題に詳しく民事訴訟を専門とする弁護士のアニカは、当初リスベットの刑事訴訟では門外漢なのではないかと能力を疑われていた。ところがこれが見事に形勢逆転する。リスベットにこれまで精神を病んでいて凶暴だというレッテルを貼りつづけてきたテレボリアンを、アニカは完膚なきまで打ちのめす。戦う女性達が「女性を憎む男達」に反撃する様子は痛快だ。


 ところで余談だが、ここで紹介されているフェルマーの最終定理の説明がたいへんわかりやすかった。この定理のことは、SFを読んでいるとしばしば見かける。SF作家にはこの定理は自明のことなのか、見かけるわりには詳しく説明されていることはあまりない。多くの人がこれを証明しようと挑戦したという程度のことは知っていたのだが、ではどういった内容なのかということまではよく知らなかった。ラーソン氏によるこの定理の説明は素人にもたいへんわかりやすいもので、さすがは本職のジャーナリストだ。しかもこれがストーリーにそれなりに効果的に使われているのが心にくい。


 この第三部で一応の決着を迎えた『ミレニアム』シリーズ。本来は第五部まで続く予定で書き進められていたそうだが、残念ながら作者の急逝のため、第三部までしか発表されていない。伏線のはりかたからすると、おそらくこのあとは、行方不明となっているリスベットの双児の妹について書かれる予定だったのではないだろうか。リスベット以上のトラブルメーカーぶりを予感させる妹のストーリーが読めなくて残念だが、このシリーズがこんなに世界的に大成功をおさめたことも、映画化されたことも、知らずに亡くなった作者のご冥福をお祈りしたい。