『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う』

あらすじ

異界族の存在を受け入れた19世紀のロンドン。この地で突然人狼や吸血鬼が牙を失って死すべき人間となり、幽霊たちが消滅する現象がおきた。原因は化学兵器か疫病か、あるいは反異界族の陰謀か。疑われたアレクシア・マコン伯爵夫人は謎を解くため、海軍帰還兵で賑わう霧の都から、未開の地スコットランドへと飛ぶ――ヴィクトリア朝の格式とスチームパンクのガジェットに囲まれて、個性豊かな面々が織りなす懐古冒険綺譚

カバーより

 英国パラソル綺譚シリーズ第2弾。今回の舞台は、かつてマコン卿が住んでいたスコットランドだ。


 新婚ほやほやのアレクシア。議長として〈陰の議会〉に出席し、ロンドンの一部のエリアで異界族が人間化しているという報告を受けた。まるで反異界族が触れた時のように、吸血鬼も人狼も特別な力を失い、ゴーストは除霊されて消滅してしまう。しかもそれは接触を必要とせず、一定の広い範囲で起きていた。アレクシアはこの事件の捜査を任命された。


 一方、マコン卿は「やっかいな家族がらみの急用」で、アレクシアにも何も告げず、スコットランドへと向かった。かつてスコットランドでキングエア人狼団のアルファだったマコン卿は、何らかの事情でこの団を捨て、ロンドンにあらわれた。そしてウールジー人狼団のアルファを倒して、ここのアルファを引き継いだ。かつてスコットランドで何があったのかは、アレクシアも知らされていない。


 広域人間化現象の謎をつきとめるために、夫を追いかけ飛行船でスコットランドへ向かったアレクシア。ところが、飛行船の旅にはアイヴィや妹のフェリシティなどの外野が大勢くっついてきてしまった。陰謀が渦巻く中、事態にまったく気がつかないこれらの外野は、スラップスティックな恋の鞘当てを繰り広げる。


 前作にくらべると本作は、「パラソル綺譚」と銘打つにふさわしくパラソルが大幅にグレードアップした。だが、こんなに仕込んでしまっては、かなり筋力を鍛えなければ持ち歩けないんじゃなかろうか。ラストでぶっかけた分を考えても、一升瓶くらいの重さにはなりそうだ。しかも、機能が多いわりにはうまく使いこなせていない。実際のところ、今回役に立ったのは、ラストのぶっかけだけである。


 また、今回はエーテルグラフ送信機なる最新機器が活躍する。こうしたあやしげな科学的機器類があれこれ登場するのが、このシリーズの魅力のひとつだ。とはいえ、最新機器も紅茶にはかなわない。さすがは紅茶の国イギリスだ。


 初登場の男装の麗人マダム・ルフォーが魅力的だ。彼女は帽子店を経営しているが、発明家でもあり、アレクシアの特別仕様のパラソルを製作した。最悪な趣味と鈍感ぶりでいい味を出しているアイヴィより、アレクシアともはるかに話が合いそうだ。起きている事態もちゃんと理解しているし、頼りにもなる。今後もあやしげな発明品とともにマダム・ルフォーが活躍することを期待したい。


 妨害されながらも見事に事件を解決し、キングエア団のお家騒動にも片を付けさせたアレクシア。ところが、ラストはまったく思いがけない方向へと展開した。もっとも、飛行船でアレクシアがおとなしかった原因についてはたぶんそうだろうと思っていたのだが、まさか最後の何ページかでこんな展開になってしまうとは。こんなところで終わってしまっては、続きが気になって仕方がない。作者のストーリーテリングのうまさに脱帽だ。


 それに、除霊と引き換えに答えてもらった10の質問についても、思わせぶりな発言があって気にかかる。また、今回の人間化を引き起こす武器は、考えようによってはアレクシアの身に大きな危険をもたらすように思えるのだが、大丈夫なんだろうか。


 あとがきによると、次作でアレクシアはイタリアへ向かい、父親の足跡をたどるそうだ。アイヴィがどうなったのかも気になるところで、今後の展開が楽しみだ。