『ミッドナイト・ララバイ』

  • 著者:サラ・パレツキー
  • 訳者:山本やよい
  • 出版:早川書房
  • ISBN:9784150753719
  • お気に入り度:★★★★☆
    あらすじ

    40年前の吹雪の夜、彼は忽然とシカゴの町から姿を消した……偶然のきっかけで、消えた黒人青年の叔母の依頼を受けたわたしは、昔の失踪事件を調べることになる。時間の壁だけが障害かと思われた調査だが、失踪の影にはもうひとつの事件が隠されていた。隠蔽されてきた唾棄すべき事実の露見を恐れる何者かが妨害を始め、わたしの身辺に次々とトラブルが! どんな圧力にも屈しない、V・I・ウォーショースキーの真骨頂!

    カバーより

 V・I・ウォーショースキーシリーズの久々の新作で、13作目。このシリーズはここのところハードカバーで出ていたのだが、今回は文庫本での刊行なので割安感がある。けれどもこのカバーイラストは何とも。50代の独立したプロの探偵を描いたようにはとても見えないし、ヴィクの性格ではこういう描かれ方をすると怒りそう。髪型も違ってるし。


 今回ヴィクが依頼されたのは、1966年に失踪したラモント・カズデンの捜索。40年も前の失踪事件なので手がかりがほとんどなかったが、ラモントの友達を調べているうちにわかってきたことは、そのうちの一人がある殺人事件の容疑者として有罪となり、その後行方がわからなくなっているということだった。


 その事件はキング牧師公民権を求めるデモ行進の最中に起こっていた。作品には当時のアメリカの人種差別の問題が色濃く反影されている。事件の裁判記録をあたっていたヴィクは、この容疑者を逮捕した警官が亡くなった彼女の父親だったことを知り、動揺する。


 一方、この夏は父方の従妹のペトラがシカゴにやって来て、彼女の父親のコネで地元の州知事候補の選挙活動を手伝っていた。若くて明るく、エネルギッシュでおしゃべりな彼女は、おなじみのヴィクの隣人コントレーラスともたちまち仲良くなり、ヴィクの家へと入り浸る。


 また、彼女はウォーショースキー家の歴史にも興味を持つ。ヴィクの父トニーと彼女の父ピーターが彼女達の祖母と住んでいた家を見たがり、今は他人の手に渡ったその家をヴィクに連れられて訪れる。


 今回もハードな立ち回りでぼろぼろになるヴィク。過去を掻き回したことで思わぬところで波風が立ち、好奇心とおしゃべりの災いしたペトラが窮地に追い込まれる。怯えたペトラを救うために、また、死期が近づいたラモントの叔母のために、40年前に何があり、ラモントがどうなってしまったのか、真実を求めてヴィクは奔走する。


 今回初登場となったペトラは、原作ではすでに刊行されている次作にも登場しているそうだ。他人を怒らせるのが得意なヴィクとは異なり、愛想が良くて誰からも(特に年配の男性達からは熱烈に)好かれる彼女はこのシリーズには目新しいタイプのキャラクターだ。男性や慣習に真っ向から立ち向かおうとするヴィクのようなタイプの女性像は、このシリーズが書かれた当時としてははしりだったのだろうが、今ではそこまで強硬にするのではなく、もっと柔軟にうまく立ち回った方がいいのではという風潮がある。女性としての愛嬌もうまく利用する、そういう時代になってきているのだろう。


 ペトラはおしゃべりすぎて探偵には向かないような気もするが、ヴィクとはいいコンビを組めそうなので、今後の活躍にも期待したい。次作が出るのはそう遠くはなさそうなので楽しみだ。