『ジェイクをさがして』

あらすじ

ロンドンは、どこからともなく出現した謎の存在“イマーゴ”に幾度となく蹂躙され、無秩序状態に陥っていた。わずかに残った数千人の市民は、レジスタンスを組織し抵抗運動を続けていたが、容赦ない攻撃を繰り返すイマーゴの前になすすべもなかった……。グロテスクなイメージに彩られたローカス賞受賞の傑作「鏡」、世界の終焉を迎えつつあるロンドンを彷徨う男を描いた表題作ほか、英国SF界の旗手による全14篇を収録

カバーより
収録作品

「ジェイクをさがして」「基礎」「ボールルーム」(エマ・バーチャム、マックス・シェイファーとの共作)「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」「使い魔」「ある医学百科事典の一項目」「細部に宿るもの」「仲介者」「もうひとつの空」「飢餓の終わり」「あの季節がやってきた」「ジャック」「鏡」「前線へ向かう道」(漫画 画:ライアム・シャープ)

カバーより

 『ぺルディード・ストリート・ステーション』(感想はこちら)がむちゃくちゃ面白かったチャイナ・ミエヴィルの、ちょっとホラーっぽい短篇集。『ぺルディード〜』に脇役として登場する〈お祈りジャック〉について書かれた短篇「ジャック」も収録されている。


 収録作品には、偏執的な強迫観念を描いたものが多い。登場人物達は何かを非常に恐れている。けれどもその恐怖の内容はぼかされていて、あまりはっきりとは書かれていない。何だかよくわからないものが襲ってくるという強迫観念がやたらとクローズアップされている。


 また、恐怖の対象も一風変わっている。例えば、「細部に宿るもの」では線や縁を生み出す物(ひび割れ、編み物の編み目、からまったスパゲッティなど)の中から何かが襲ってくる。こうした一風変わった題材を恐怖の対象として着目するところがミエヴィルらしさなのだろう。


 登場人物達はそうした恐怖の対象を異様に恐れるものの、読んでいる方からしてみればたいして恐くはない。恐いのを楽しむというよりは、登場人物達の偏執的な恐怖を楽しむといった感じだろうか。一歩間違うとギャグになりかねないところをうまく文学的にまとめあげているのはさすがだ。なんとなく『クトゥルフ』にも似た印象がある。


 期待の「ジャック」は、義賊のジャックを密かに崇拝して応援するある人物の独白。リメイドのジャックに自分がどう関わったかを語る。


 リメイドとは、オカルトの魔術を使って身体を改造された生き物のこと。この〈バス=ラグ〉の世界ではこうした身体改造を懲罰のために行う。だからとんでもない改造のことが多い。顔の真ん中から手が生えていたり、人間以外の生き物の部品が取り付けられたりする。〈お祈りジャック〉もカマキリの腕を持つ。


 ただ、『ぺルディード〜』ははっきりとしたストーリーラインがあったが、「ジャック」は落ちはあるものの起伏はあまりなく、またそぎ落とされた短篇なので少し世界観が分かりにくい。こちらを読んだだけでは『ぺルディード〜』の面白さは伝わりきらないかもしれない。〈バス=ラグ〉を舞台とした次の長篇が待ち遠しい。