『都市と星』〔新訳版〕

あらすじ

遥か未来、銀河帝国の崩壊によって地球に帰還することを余儀なくされた人類は、誕生・死さえも完全管理する脅威の都市ダイアスパーを建造、安全の地と定めた。住民は都市の外に出ることを極度に恐れていたが、ただひとりアルヴィンだけは、未知の世界への憧れを抱きつづけていた。そして、ついに彼が都市の外へ、真実を求める扉を開いたとき、世界は……。巨匠が遺した思弁系SFの傑作、待望の完全新訳版。解説:中村融

カバーより

 1977年にハヤカワ文庫から刊行された『都市と星』の新訳版。原作は1956年の刊行。


 クラークの作品は、実は私はあまり読んでいない。高校生くらいに『海底牧場』、『幼年期の終り』、『2001年宇宙の旅』は読んだ覚えがある。特に『幼年期の終り』はスケールが大きく、SFの醍醐味を感じたものだった。


 その後『2001年宇宙の旅』の続編『2010年宇宙の旅』、『2061年宇宙の旅』、『3001年終局への旅』が刊行され、それらも読んだ。が、おそらくそれ以外の作品はほぼ読んでいないように思う。私はこの時代のSF作家としてはアシモフが一番好きでほぼ全作を読んだし、その次にはハインラインが好きだったので、クラークにまで手が回らなかったのだ。


 あらためて読んでみたが、SFとしてはネタが古いながらも、ずいぶんドラマチックに描かれているなぁと感じた。好奇心が旺盛な主人公アルヴィンの目を通し、閉塞的な世界を打ち破って広がる新しい世界が生き生きと描かれている。ストーリーも変化に富んでいて面白い。さすがは巨匠クラークだ。


 閉塞的な都市ダイアスパーでは、人体は改造が進み、子供が生まれない。メモリーバンクに保存された精神が大人の肉体に入れられて送り出され、千年生きる。死ぬ時も記憶は編集されて保存され、肉体は存在を停止する。人はダイアスパーの外に出ると恐怖感を覚えるように条件づけされている。しかしアルヴィンだけは、ダイアスパーの外の世界に興味を持っていて、都市の外へと出たがった。アルヴィンはダイアスパーである特殊な役割を与えられた人間っだった。都市の外へ出ることをついに実現させたアルヴィンは、自然と共に生きる村リスを見つける。ここでは子供が生まれ、人は短命なまま死んでゆく。人工的なダイアスパーと自然の象徴のリスが対比していて面白い。


 アルヴィンは、リスの青年ヒルヴァーと友達になり、二人で冒険の旅に出る。地球に何があったのか、どうしてダイアスパーやリスはこのような形態でお互い断絶して暮らしているのか、次第に明らかになってゆく。そしてアルヴィンは機械のペットを、ヒルヴァーは生物学的なペットをそれぞれ手に入れる。二人の生まれた場所にそれぞれ対応しているようだ。


 それにしても、その前に読んだ『ノーストリリア』(感想はこちら)でもそうだったが、未来像というとみんなテレパシーで話をするのが普通というのがこの時代のSFの流行りだったようだ。80年代以前に書かれたSFには、やたらとエスパーなどが活躍していたように思う。そういったものを出しておけばSFっぽく感じられたし、常人にはできないことができて話が作りやすかったのだろう。90年代以降はあまり見かけなくなったが、最近では特撮技術が進んだせいか、映画やドラマといった大衆向けの映像でこういったネタが復活しているようだ。