『ノーストリリア』

あらすじ

時は〈人間の再発見〉の第一世紀。銀河随一の富める惑星ノーストリリアで、ひとりの少年が地球という惑星を買い取った。少年は地球へやってきて、なみはずれた冒険を重ねたすえに、本当にほしいものを手に入れて、無事に帰ることができた。お話はそれだけだ。さあ、これでもう読まなくていい!ただ、こまかいところは別。それは、この本のなかに書いてある。一人の少年が出会った真実の愛と、手に汗にぎる冒険の日々が……

カバーより

 名作SFのひとつとして題名と作者名はかなり前から知っていたものの、読んではいなかった一冊。新装版が出たので読んでみたのだが、これが思いのほか面白かった。1975年に原作は書かれているので、時代遅れとなっていても仕方がないところだが、全体を通じてずいぶん奇妙な印象が強くあり、そのため古びた印象を感じさせない。


 タイトルの『ノーストリリア』は、「オールド・ノース・オーストラリア」を縮めた呼び方。聞きなれない言葉だと思っていたが、そんな意味だったとは。この惑星では巨大な羊を飼っていて、この羊の病気を煮詰めて作られるストルーンは、不老長寿の薬としてべらぼうな高値で売買されている。これだけでもずいぶん変わっているという印象がある。


 この惑星の名家〈没落牧場〉の跡取りの少年ロッドは、〈ゲラゲラ屋敷〉から無事三度目の帰還を果たし、牧場を相続した。そして一晩で複雑な取引をこなした挙げ句莫大な財産を築きあげ、地球を買った。周囲の状況はとたんに変化し、危険から逃れるために扮装して地球へと向かう羽目に。地球では、元は猫だった下層民のク・メルの案内で不思議な体験をし、自分自身が本当は何を求めているのかを知ってそれを手に入れる。


 主人公が(三度目とはいえ)少年だし、動物と人間の中間のような下層民なども登場しているので、なんとなくおとぎ話のような雰囲気がある。一方で、ノーストリリアの人口制限など、シビアで冷徹な一面もある。


 また、いきなり何の説明もなく、他の短篇などの登場人物の動向が挿入されているので面食らう。この物語は作者の構築した宇宙史の一部となっているようで、登場人物の一部は『鼠と竜のゲーム』などの短篇にも登場しているそうだ。けれども作者が宇宙史を完成させる前にすでに亡くなっているため、全体像は推測するしかなさそうだ。だが、不思議な魅力のある作品だったので、他の作品も読んでみたくなった。