『マージナル』舞台化

 萩尾望都原作のSF漫画『マージナル』が舞台化されたので観に行ってきました。演じているのは「スタジオライフ」http://www.studio-life.com/という劇団で、男優ばかりで構成された劇団だそうです。確かに、そういう劇団が舞台化するには『マージナル』は適した作品です。というのも、このSFの舞台となっている未来の地球には女性がいないので、登場人物のほとんどが男性だからです。男性ばかりのこの地球では、人類は短命で、シティにいる唯一の女性とされているマザが皆の子供を産み、村々に分配しているということになっています。けれども現在のマザは年老いてしまったため、何年待っても子供をもらうことができません。そんな終末感漂う世界を舞台に、登場人物たちはそれぞれの信念に従って、社会を変えようと行動を起こしてゆきます。


 舞台は「砂漠編」と「都市編」の2バージョンあり、両方とも観てきました。原作を読んだことがある人にはだいたい想像がつくと思いますが、「砂漠編」ではグリンジャ、アシジン、キラなどがメインで活躍し、「都市編」ではメイヤード、ミカル、ネズなどがメインで活躍します。共通している部分もあり、途中で分岐してそれぞれのシナリオが進行し、再び共通のシーンが展開するといった具合に、それぞれのバージョンは構成されています。


 主役格の3人が活躍する「砂漠編」の方が、ストーリーもわかりやすく、立ち回りも派手で見栄えがします。最初に観るならこちらの方が適していると思います。一方「都市編」では、SF的な説明がきっちりフォローされていて、男性ばかりの特殊な社会がどうしてできているのかがよくわかります。それにやはり何よりメイヤードのサブストーリーが見所です。どちらのバージョンも、単独で観てもわかる構成になっていて、うまくまとめたものだと感心しました。


 こうしてあらためて観てみると、原作の漫画には複雑なストーリーがうまく詰め込まれているのがよくわかります。SFとしても本格的なものです。舞台ではそれがテンポよく表現されていました。また、原作の重要なメッセージが損なわれることなくきちんと表現されていたのが良かったです。この作品には、産む性を押し付けられることへの拒否が描かれています。また、こうしてみると萩尾望都は、日本教に対する拒否を描いていたんだなぁとも思いました。「同じ夢を見て」と強要してくる、4人でひとつの人格を持つキラを、キラを作ったイワン博士の妻は拒絶します。日本教の人は、差異を無視して、他人に自分と同じであることを当たり前のように強要して来ることが多いので疲れます。おそらく作者もさんざんそのようなことを経験したのだろうと思います。舞台のポスターが嘆美っぽい雰囲気のものだったので少し懸念しながら観に行ったのですが、そういう重要な部分がきちんと描かれていたし、本格的な演劇を目指したもので面白かったです。


 終わった後にトークショーもありました。単に俳優が話すだけかと思っていたら、演じてみたい他人のシーンを演じるというもので、観たばかりのシーンの再現をもう一度観ることができ、予想してた以上に面白かったです。かわいらしくキラを演じた役者さんがドスの利いた声で男っぽい役を演じていて、そのギャップにさすが役者と感心しました。舞台は9月28日まで上演されています。