『愚か者死すべし』

あらすじ

晦日の朝、私立探偵・沢崎のもとを見知らぬ若い女、伊吹啓子が訪れた。銀行強盗を自首した父の無実を証明してほしいという。彼女を父親が拘留されている新宿署に送り届けた沢崎は、狙撃事件に遭遇してしまう。二発の銃声が轟き、一発は護送されていた啓子の父親に、もう一発は彼を庇おうとした刑事に命中した! 9年もの歳月をかけて完成した、新・沢崎シリーズ第一弾。巻末に書き下ろし掌篇「帰ってきた男」を収録。

カバーより

 私立探偵沢崎を主人公とするハードボイルド。『そして夜は甦る』『私が殺した少女』『さらば長き眠り』の三作が第一期のシリーズで、本作は第二期新シリーズの一作目なのだそうだ。ハードカバーで出されていたものが単行本化されていたので購入。ブログを見返してみると、2005年に購入予定となっていた(感想はこちら)。


 このシリーズはハードボイルドらしいストイックさが貫かれていて、安心して読める。これの前に読んだ鏡明氏作『不確定世界の探偵物語』(感想はこちら)が、ハードボイルドの体裁を取りつつも、主人公が肉感的な女にデレデレで、あげくに純愛に走ってしまい、とても違和感があった。色・金・権力に自制がないと、ハードボイルドらしくないと思う。その点本作はそれらに見事にストイックで、ハードボイルドのクールな世界観を満喫できる。


 今回の事件では、暴力団の抗争と、政界の情勢を裏で左右する大物人物の誘拐事件が交錯する。色・金・権力の欲望が渦巻く中、沢崎はそこに絡み取られずに、裏の裏まで飄々と透かし見ていてかっこいい。