『ゴールデン・エイジ 1 −幻覚のラビリンス』

 スケールがでかくて面白い。不死が実現された遠い未来の話で、世界観の大掛かりな創りこみもなかなか凄いし、何よりストーリーがドラマチック。主人公ファエトンの失われた記憶をめぐって話は二転三転し、謎が謎を呼び、飽きさせない。それも半端な二転三転ではなく落差が大きい。巨万の富がからみ、欲望が渦巻き、正体不明の敵による陰謀の気配がちらついてと盛り沢山だ。この作品は三部作の一作目にあたる。


 主人公ファエトンは、千年期を祝う記念式典のさなか、彼がかつて多くの人々に大変な損害を与えることを計画していたとほのめかされた。しかし彼には全く身に覚えがない。やがて彼は、自分の記憶が何世紀にも渡ってごっそり失わていて、感覚フィルターで、一部のものが見えなくなるよう制限されていることに気がついた。彼はいったい何を計画していたのか。どういった経緯で記憶が失われているのか。こういった謎を軸に物語は進行する。


 脳を改造した構造の違いで4つのタイプに人類が分類されている設定も面白いし、人工知性ソフォテクとの共存や、人類が本体を保管したままサイバースペースで活動している様子も面白い。テクノロジーもナノテクが発達してさまざまなことができるし、アドマンチウムという夢の貴金属も登場する。紹介されるプロジェクトも木星を太陽化したりと大掛かり。スケールが大きくてわくわくする。


 ただ気になるのはそこまで凄まじくテクノロジーが発達しているのに、それを扱う人間が、何千年も生きている割には人格的にたいして成長していない点だ。主人公ファエトンはすぐに怒りを覚えているし、それでいいのかと思ってしまう。だが、今後の展開でこのあたりがネタになって来るような気はする。


 また、人格が簡単にコピーできることから、オリジナルとコピー、さらには人格を構成する要素や片鱗といった問題が噴出し、それが法的にからんでくる。イーガンのように「私とはなんぞや」といったテーマもそのうち出て来そうだ。続きがさらに2巻あるらしいので、今後がどのように転がっていくか、愉しみだ。