『ウィンディ・ストリート』

 V・I・ウォーショースキーシリーズ第12弾。前作の高級住宅地とうって変わって、今作は下町を舞台とする話だ。


 病に臥せる高校の恩師の頼みを断りきれず、ヴィクは母校のバスケ部の臨時コーチを引き受けることになった。ヴィクの生まれ育ったこのサウス・シカゴでは、低賃金で長時間働くしかないのが現状で、若くして身ごもってしまった少女達は、やはりその生活から抜けだせないといった悪循環が続いていた。


 高校にも予算がなく、バスケ部の状況も悲惨だ。現状を何とかしようとヴィクは奔走する。地元の有力企業バイ・スマートに寄付を募ったり、部員の母親に頼まれて彼女の勤める工場で起きた悪質な悪戯事件を調べたりしているうちに、工場では出火が起き、社長が犠牲となってしまった。そんな折、バイ・スマートの社長の孫のビリー青年が家出をしたため、ヴィクは父親から捜索を依頼される。ビリーは信仰心の厚い純真な青年で、下町の悲惨な状況に胸を傷めていた。アフガニスタンから戻ってきたヴィクの恋人モレルの友人で、女性ジャーナリストのマーシナをも巻き込んで、事態は動き始める。


 今回ヴィクは生まれ育った地域に戻ってきたため、彼女の過去がいろいろと出てくる。このシリーズの最初の方で別れたかつての恋人や、高校時代のクラスメイトなどと再会する。多くの人達から頼られ、放っておけずについつい深みにはまってしまうお人好しのヴィク。少しずつでも状況を変える努力を誰かが続けることで、事態は改善していくのだろうか。