『ブラック・リスト』

 V・I・ウォーショースキーシリーズ*1第11弾。久々にこのシリーズを読んだが、改めて読むと読みごたえがあって、ついぐんぐん読み進めてしまう。


 空家となっているはずの屋敷で不法侵入者を見かけたと老いた母が気にかけているので調べて欲しい。こんな依頼を上顧客のダロウから請け負い、ヴィクは大邸宅の建ち並ぶニュー・ソルウェイへ調査に赴く。彼ら親子が以前住んでいたその屋敷で張り込んでいたヴィクは、池に落ちたはずみに、黒人男性の死体を見つけた。彼はルウェリン出版に勤めていたジャーナリストで、1930年代に連邦黒人劇場プロジェクトに参加していた黒人の振り付け師カイリー・バランタインについて取材していた。悲しみにくれる妹の依頼で調査しはじめたヴィクは、かつてニュー・ソルウェイで繰り広げられた閉息的な人間関係に踏み込むことになっていく。


 今回の話は9.11の同時多発テロの翌年にあたる話で、ピリピリしたアメリカの雰囲気が伝わってくる。ヴィクの恋人のモレルはアフガニスタンに取材に出かけているためヴィクは気が気じゃないし、プライバシーを踏みにじる愛国者法もキナ臭い。テロの影響による偏見も甚だしく、カイリー達の弾圧された出来事が決して過去の出来事ではなく、いまだに続いている現在進行形の出来事として描かれている。被害者がか弱いだけに、偏見の理不尽さが感じられる。

*1:ちなみにこのシリーズは映画化もされている。『私はウォッシャウスキー』という邦題で、第1弾と第2弾を合体させたような話だった