『メモリー』(上・下)

 久々のマイルズシリーズの本篇。これの前作に当たる『ミラーダンス』が2002年に出ているので、実に4年ぶり。しかも『ミラーダンス』のマイルズは冷凍保存されていた期間が長かったため、その本領である狂想曲のような活躍が見れずに欲求不満気味だった。今回マイルズは遺憾なくその本領を発揮していて楽しめる。またマイルズの人生の中でもかなり重要なターニングポイントにあたる一冊となっている。


 『ミラーダンス』で一度死んだマイルズは、後遺症に悩まされる。若気のいたりでひねり出したネイスミス提督という仮のアイデンティティからマイルズはようやく卒業し、本来のヴォルコシガンとしての自分に向き合うことになる。


 今回の舞台はバラヤーの機密保安庁イリヤン長官の身体に重大な異変が起きる。具合の悪いイリヤンを心配したマイルズは、 臨時で皇帝直属の聴聞卿という地位を手に入れ、真相を突き止めるために活躍する。 今回の騒動ははたして自然発生したものなのか、それとも何か陰謀が企まれているのか。このシリーズの面白さの一部にはバラヤー独特の封建的な社会制度にあるが、マイルズの忠誠心が試されることになる。


 シリーズのあちこちで活躍した登場人物達がたくさん登場しているのも今回の見所のひとつ。中でも『無限の境界』の「喪の山」で子供を亡くしたハラ・クリスクのその後の人生は、マイルズにも大きな意味を持っていて印象的だ。