『地球間ハイウェイ』

あらすじ

百万年以上前から、百万をこえる並行地球を〈輝き〉に沿ってつぎつぎに旅してまわる〈巡りびと〉たち――彼らはパラレル・ワールドのさまざまな地球を訪れて、文明の進展を助け、人類を導いている。だが、その究極の目的は、並行地球を結ぶ〈輝き〉を45億年前に築いた謎の種族〈創建者〉を見つけだすことだった。果てしない時空をこえる旅路の果てに〈巡りびと〉たちが目にするものとは…壮大な設定で描く本格長篇SF

カバーより

 パラレルワールドを扱ったSF。並行する無限の世界を繋ぐのは、〈輝き〉と呼ばれる未知の技術。これは〈創建者〉という謎の種族が設置したものだとされていた。


 ジュイは〈見者〉と呼ばれる世界の地球に生まれ、この2方向に伸びるハイウェイを使って、多様な地球を一つに繋げるという壮大な構想を練り上げた。〈巡りびと〉という組織を作りあげ、百万年かけて百万もの地球を訪れた。繋げた先の世界でジュイは集会を開き、〈巡りびと〉の使命を語る。それは中庸と多様性を善とする思想で、多様な世界を平和で繋ぐというものだった。彼らは〈輝き〉の門を設置するためのわずかな土地と、現地のお金を求め、お返しにその世界に役に立つと思われる技術や思想などを贈り物として提供してきた。


 物語はそんな〈巡りびと〉のふりをしているカイルを軸に進んで行く。この地球はどうやら我々の地球のようだ。カイルは普通の人間だったが、〈巡りびと〉の制服を真似た服を着、〈巡りびと〉のふりをしていた。人々は彼を〈巡りびと〉の一人と間違えてもてなした。


 ビリーもカイルを〈巡りびと〉と信じた一人で、彼と付き合っていたが、〈栄光の君〉であるジュイに会わせてほしいとカイルに頼みこむ。カイルは仕方なくジュイに会わせるためにビリーを集会に連れて行く。しかし、そこで二人は〈巡りびと〉の存在を揺るがす重大な事件に巻き込まれることになる。


 〈巡りびと〉を騙っていたカイルがどのように取り扱われるのかに興味があったのだが、うまい具合にストーリーに必要な存在となりながらも、あくまでもその選んだ手段どおりの結末を辿っていて、好感が持てた。


 ジュイの善に対する信念がすがすがしい。彼女は困難にあってもへこたれず、常に希望を失わない。他の〈巡りびと〉が手の施しようがないと絶望したその時においても、自分自身の可能性を求めて、一人挑戦し続けている。その試みの前には大きな困難が立ちふさがっているが、その信念は心に残る。


 多様性と中庸を善とするジュイの種族が〈見者〉と呼ばれ、自分のコミュニティの内部の者は大切にするが外部の者には残虐な種族が〈不見〉と呼ばれているのが興味深い。中庸とか許容性というものは、これからますます必要になっていくように私には感じられる。