『ビター・メモリー』

あらすじ

恋人のノンフィクション作家モレルのアフガン行きが決まり、憂鬱な日々を送るわたしのもとに、黒人労働者サマーズから保険金詐欺の調査依頼がきた。また同じ頃、シカゴではホロコーストについて話し合う会議が開催されていたが、そこでスピーチをしたラドブーカという男性の名前を聞いて、親友の女医ロティが失神してしまう。彼女の過去と関わりがあるらしいのだが、何を訊いてもいっこうに答えてくれない。彼女を助けたい一心でわたしはラドブーカを調べはじめるが、その直後、まるで調査を妨害するようにわたしを中傷するビラが街頭でばらまかれた。さらにサマーズの保険を扱った代理店の店主が殺され、ロティが忽然と姿を消す。わたしは二つの事件の意外な結びつきに気づくが、そのせいで身近な人間を危険に晒すことに。事件は混迷を極め、真相を追うわたしの前に事件に関わる人々の苦く哀しい過去が浮かび上がる。
過去の亡霊に悩む親友のために奔走するV・Iの友情が深い感動を呼ぶ大作。英国推理作家協会賞ダイヤモンド・ダガー賞(巨匠賞)に輝く著者が贈る、女性探偵V・I・ウォーショースキー・シリーズ第10弾。

カバー折り返しより

 このシリーズは、タフな女性探偵V・I・ウォーショースキーが主人公のミステリー。同じく女性探偵キンジー・ミルホーンの活躍するシリーズとともに、プロとして体を張って活躍する女性探偵もののはしりである。前作が出て以来実に8年間音沙汰なしだったので、新作が発行されたことに驚いた。


 物語の年代が書かれた年代と異なりゆっくり年を重ねるキンジーのシリーズと違って、ウォーショースキーのシリーズは書かれた年代が物語の年代となっている。久しぶりに登場した主人公のヴィクは、前回には持っていなかったパームや携帯電話などを持っていて、時代の流れを感じさせる。世相もタリバンのテロ活動などが背景で語られていて、社会問題を描くパレツキーならではである。



 主人公ヴィクはシカゴで金融関係の調査を専門に探偵をしている。ファーストネームはヴィクトリアだが、ヴィッキーと呼ばれるのが嫌で、ヴィクまたはV・Iと称している。金融関係をメインに扱ってはいるものの、友人や身内の頼みを断り切れずに乗り出した捜査が殺人事件に発展するケースが多く、そのたびにハードな大立ち回りを演じるはめとなる。



 今回はヴィクの親友で母親代わりの存在の女医ロティの過去がからんでいる。ユダヤ人を父に持つロティは、幼い頃ドイツの家族の元を離れてイギリスの親戚に引き取られた。ロティにはひとに知られたくない過去があり、その過去に結びつくラドブーカという名を名乗る人物が現れたことで動揺する。自分の身内を探すラドブーカは不安定な性格をしており、ロティの友達を自分の身内だと思い込み、強引に押し掛けてくる。


 一方、仕事で引き受けた保険金詐欺事件の調査を進めるうちに、ホロコーストの犠牲者の受け取るはずだった保険金に関わりがあることが分かってくる。二つの事件は意外なところで結びついていた。



 友人ロティの動揺に心配をかきたてられ、感情の不安定なラドブーカに引っ掻き回され、ヴィクはピンボールのように跳ね回る。泣きわめく子供や死体の発見がさらに不安定さを助長する。


 ヴィクは依頼人の誤解を受け、中傷されて四面楚歌となる。何よりロティの拒絶に傷付く。このシリーズでヴィクは毎度毎度傷つき怒っている。友人達でさえ、立場上敵に回ることもある。また追い詰められた犯人に攻撃され肉体的にダメージをくらうこともある。それが見ていて痛々しい。


 しかしくたくたになりながらも、真実を求める執念で事件を解決していくのである。今回はホロコーストの犠牲者がテーマとなっている。そのため話が暗く重い。しかし弱いものを助け、身勝手な悪人を許さないヴィクの正義感がすがすがしい。