『最果ての銀河船団』(下)

あらすじ

戦争を繰り返しつつ近代化への道を歩む蜘蛛族の世界に一人の天才科学者が現れ、彼らは今まさに原子の火をも手に入れようとしていた。一方、軌道上の主人公たちは、エマージェントの凶悪な指導者のもとで奴隷状態におかれながら、長い雌伏の時を過ごしていた。そして刻々と蜘蛛族世界への侵攻の時がせまるなか、ついにチェンホーの反撃が始まる。宇宙の深淵で3000年を生きてきた伝説の男が立ち上がったのだ! ハードSFとスペースオペラの醍醐味をあわせもつ傑作巨編。

扉より

 オンオフ星系でチェンホーとエマージェントが立ち往生してから、35年が経っていた。相変わらずエマージェントに指揮権を握られたまま、チェンホーの大半が集中化技術で意志を失い奴隷となっていた。しかし、チェンホー流の商売の慣習も少しづつ浸透していて、裏経済として成り立っていた。ラムスクープ船の破壊で航行手段を失った人類サイドの頼みの綱はアラクナ星の蜘蛛族で、彼らの科学技術力が発達し利用可能となるのを待っていた。チェンホーの反乱は一度失敗していたが、伝説の男は密かに活動を開始し始め、反撃の機会を窺っていた。


 一方アラクナ星では、前回の戦争でシャケナーの活躍により優位にたったアコード国が勢力を延ばしていた。しかし対立するキンドレッド国も力を付けつつあり、暗躍していた。シャケナーの子供達にも魔の手がのびる。再び暗期が近付いた時、アラクナ星は一触即発で戦争を引き起こしかねない状況となっていた。蜘蛛族の様子が非常に人間くさく、国同士の争いも現代の世界情勢を思わせる描き方となっている。


 スペースオペラには、便利なワープ航法やハイパートンネルといったものがよく登場し、広大な宇宙の距離と時間を埋めている。しかしこの物語に登場するラムスクープ航法は、光速を越えない。代わりに医学の進歩で寿命を延ばし、冷凍睡眠で時間を停める。チェンホーの発展してきた歴史の中にも、それがあちこち出てきて、新し味があって面白い。広大に広がった一つの文明が代表者による集会を開くのにも、何百年という時間をかけて集合するのである。大半の人々は、出発した時点での自分の文明がそのままの形を保っていないことを覚悟の上で旅立つ。人間のはかなさとしたたかさがそこに感じられる。どんなに栄えた文明も興隆を繰り返す。自然界には絶対にどうにもならないことが存在するのである。


 3000年間夢を追い続けた男は、自分の夢を叶える技術をついに見つけた。しかし、手段が間違っているならば、たとえ目標が達せられたとしてもそれでは駄目なのだと気付き、夢破れる。そしてそこから新たな夢を見い出すのである。この辺の葛藤が、物語に人間味と深みを与えていて面白くなっている。


 ロマンあり、冒険あり、策略ありで、気軽に楽しめるスペースオペラだが、異種族とのファーストコンタクトやさまざまな科学技術、謎のオンオフ星にちりばめられた伏線など、SFとしてもなかなか本格的に楽しめる。ただオンオフ星の謎は解明されることなく終わっていて、物足りない感じも少しあった。しかし、巻末にあった解説でそれが覆された。この作品の前に同じ宇宙を舞台とした『遠き神々の炎』が出版されているのだが、その宇宙観を酌んだ上で解説者が予想したオンオフ星の正体が紹介されている。それがなかなかスケールが大きくて、面白いのだ。予想が当たるかどうかわからないが、今後の展開が楽しみである。