『シンプル・プラン』

シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)

 普通の人が、偶然大金を手にしたことで転落していく経緯を描いたミステリー。人間の心の闇が描かれ、どんどんエスカレートしていく様子が非常に恐い。なまじ大金を手にするまではどこにでもいる普通の人だっただけに恐ろしい。


 主人公はよくいる小市民タイプ。440万ドルという大金を、墜落したセスナ機から偶然見つけ手にする。さっさと届け出ればよかったものを、兄とその友達に唆され、犯罪絡みなのが明らかなその大金を着服してしまう。これが大きな間違いで、それを発端に人生が少しずつ狂いはじめる。


 せっかくの大金も発覚を恐れて使うこともできず、はやる兄達をなだめながらほとぼりがさめるのを待っているのだが、事態は思ったようにうまくは運ばない。主人公の本来の小賢しい性格が、次第に前面に出てくる。ひとつひとつは本当にささいなことがきっかけだが、嘘を隠す為に嘘をつき、ごまかすために小細工をすればするほど、ますます事態は悪化する。どんどん泥沼にはまってしまい抜けだせなくなる。


 この恐さ。人間の欲望の業の深さ。ちょっとしたきっかけで、普通の人がいともたやすく豹変してしまう辺りが一番恐い。ちゃんとした信念と、誘惑を退けるだけの勇気が無く、思慮が浅くて欲深い。人間の弱さを描いた反面教師的な作品である。


 小説としてはとても面白く、ぐいぐい引き付けるだけの力量がありあっという間に読める。しかしテーマがテーマだけに読後感はスッキリとはしないかも。もっとも、これがハッピーエンドになってしまっては何だかなぁ、と思うので、これでいいのだろう。映画化もされている。