『バラヤー内乱』

あらすじ

幼年皇帝の摂政として惑星統治を委ねられた退役提督アラール。だが、その前途に暗雲は忍び寄り、反旗は一夜にして翻された。首都は制圧され、この辺境の星は未曾有の窮地に立たされる。アラールの妻コーデリアは五歳の皇帝を預かり、偏境の山中へ逃れるが…。シリーズの主人公となるマイルズの誕生前夜の激動を描き、ヒューゴー賞ローカス賞を制したシリーズ中の白眉!

カバーより

 ヴォルコシガン・サガシリーズの番外編のような作品その2。マイルズがうまれる直前に起きたバラヤーのクーデターの話で、結婚まもないコーデリアが主人公。


 エザール皇帝は崩御し、その息子セルグ王子もエスコバール戦で亡くなっていたため、幼いグレゴールが皇帝となる。その摂政役としてアラールが任命される。古い因習を固持しているアラールの父ピョートルは、外世界人のコーデリアの自由な考え方が気に入らなかったものの、彼女がマイルズを懐妊したため少し態度も緩和する。摂政妃として次第にバラヤーに知り合いもでき、グレゴール皇帝の母カリーン妃とも親しくなるコーデリア。しかしアラールの政敵の挑発に乗った一人の貴族に夫婦は襲撃され、毒ガスを浴びる。


 幸いアラールにもコーデリアにも命には別状なかったものの、毒を中和する薬の副作用で、胎児だったマイルズは脆い骨という大きなハンデを背負うことになる。バラヤーには奇形児をミュータントとして忌み嫌う古い因習があり、ピョートルにとっては自分の血筋からそういった子孫が生まれることが耐えられず、強行に中絶を勧める。コーデリアとアラールは断固反対し、マイルズは人口子宮に入れられて厳重な治療の元で育てられることになる。


 そんな折グレゴールの母親に取り入った一派がクーデターを起こす。何とか助け出されたグレゴールを機密保安庁から預けられ、コーデリアはピョートルや忠臣ボサリと共に、彼を連れて山の中を逃げ落ちる。皇帝を守って大活躍のコーデリア。最後はマイルズの入った人口子宮を取り戻すため、敵の手中にある城に潜入、大立ち回りを演じる。子を持つ母は(たとえ内気なカリーン妃でも)強しというストーリー。


 コーデリアのあまりの逞しさに、さすがの堅物のピョートルも以後文句が言えなくなる。そりゃ、クーデターのさなか、「私が買ってきたものをご覧になりたい?」と言われて“あんなもの”を見せられた日には無理もないだろう。ベータ人のコーデリアも実はずいぶんとバラヤー的になっている。


 シリーズ全体を通じてバラヤーの政治闘争はなかなかのものだ。このシリーズの一番の主役は実はバラヤーという封建社会そのものなのかもしれない。


 マイルズは生まれてからも障害を抱えてずいぶん苦労してる。生まれる前もずいぶん難しい状況だった。エピローグで5歳になったマイルズが登場している。マイルズは、彼の誕生に懐疑的だったおじいさんのピョートルのことも大好きである。またこの頃から他人をうまく自分の目的のために動かすコツを持っていて、成長したときの性格がうかがえる。マイルズの視点で描かれていないのが少し残念だ。