『戦士志願』


あらすじ

貴族に生まれながら、生来の身体的ハンデのため士官学校の門をとざされた十七歳のマイルズ。一度は絶望の淵に立たされた彼だったが、とある事情で老朽貨物船を入手、身分を偽り戦乱渦巻くタウ・ヴェルデ星系へと船出した。だがさすがの彼も予期してはいなかった、抜きさしならぬ状況下で実戦を指揮することになろうとは!シリーズ第一弾。

目録より

 ヴォルコシガン・サガとよばれているスペースオペラシリーズの一冊目で、このシリーズは何度もヒューゴー賞ネビュラ賞を受賞している。


 主人公のマイルズ・ヴォルコシガンは、バラヤーという惑星の摂政の息子。事故のため外宇宙に通じるワームホールが長い年月閉ざされ孤立していたバラヤーは、皇帝を中心とした軍人貴族ヴォルが支配する、封建的な独自の社会を築き上げていた。また、鎖国状態だったことで科学技術等が衰退してしまっていた。現在はワームホールも復旧し、最先端の科学技術や考え方が外宇宙から急速になだれ込んできている。


 マイルズの母はマイルズを身籠っていた時に毒ガスで暗殺されかけた。その解毒剤の副作用のためマイルズは骨が極端に脆いという障害を持っている。体力的には劣るマイルズだが、鋭い洞察力と機転とはったりで様々な危機を乗り越えていく。バラヤーならではの政治的な権謀術数、バラヤーを取り巻く周囲の星々との関係も見のがせない。根本的に非常に優しいマイルズは、優しすぎるが故に傷付き、悩み、人間くさい。大変優秀な切れ者のくせに、せわしなく変なものをいじってみたり、妄想に耽ってみたり、暴走して突っ走ったりする。一種の躁鬱状態なのだが、それがこのシリーズの一番の魅力となっていると思う。


 本編はそんなマイルズが17歳の頃のストーリー。シリーズが書かれた順番と邦訳された順番が違うので、どういう順序で読めばいいのか迷うが、邦訳されたマイルズ自身が活躍するストーリーの中ではこれが一番若い頃の話である。


 士官学校の入学試験を骨折したため失敗した傷心のマイルズ。そんな折、彼の祖父ピョートルが息をひきとる。良くも悪くも旧体制の象徴のような祖父の目には、障害を持つマイルズは旧来の偏見でミュータントとうつり、自分の血筋からそういう者が出たことが気に入らない。試験に受かって祖父に見直してもらいたかったマイルズだが、それも叶わなくなる。


 気分転換をかねてマイルズは、母方の祖母の住むベータ植民惑星に旅行にでかける。お供は侍従兼ボディーガードのボサリとその娘エレーナである。しかし、マイルズは到着したベータで宇宙船を成り行きで買い取るはめになり、またバラヤーからの脱走兵を家臣に加える。そして出来た多額の借金を返すために、少し怪し気な配達を引き受けたマイルズは、傭兵により封鎖されている戦乱の空域へと飛ぶ。


 持ち前の頭の回転の良さと話術と発想力で、こう着状態の戦争を突破していくマイルズ。デンダリィ傭兵艦隊を作り上げ、母方の性ネイスミスを名乗ってネイスミス提督となる。


 私はこれの前に『無限の境界』を読んでいたので、デンダリィ隊のできた経緯がわかって面白かった。戦術などは非常に骨太な内容なので、作者が女性と知り驚いた。もっとも話はここまで都合よく進まないだろうという所は多いのだけれど、それを差し引いても面白い。いろいろな事件が次々と起こり、それをマイルズが次々と解決し、突破していく。最後はバラヤーでの政治的な陰謀に巻き込まれ、それを解決する手法も見事である。マイルズが、自分の居場所を求めて、自分の力でそれを勝ち取るという成長物語。