『天冥の標10 青葉よ、豊かなれ』(Part1〜Part3)
ついに完結篇となるシリーズ第10弾は、青葉で始まり青葉で終わる。80歳となった千茅は、生涯友達だった青葉の手紙を孫に見せる。
「立ち止まるな。押し潰されるな。生きられる場所を見つけて生きていけ。あんたたちが消えていい理由は何もない」
『天冥の標10 青葉よ、豊かなれ』(Part1) P61より
千茅はどんな《
Part1では、
Part2では、ミヒルの討伐隊が結成され、ドロテア戦艦の内部へと攻め込む。また、集結した宇宙諸族「
Part3では、MMS艦隊がカルミアンの母星カンムへ降下し、ここに逃れミスン族を取り込んだミスチフを阻止すべく、激しい戦闘を繰り広げる。イサリもまた、《
ラストでは、青葉が再度登場する。2019年の東京で、自分のやっていることが意味のあることなのか悩みながらも、青葉は千茅に励ましの手紙を送り続けている。
『天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ』(Part1)
金色の龍のような異星人エンルエンラの群勢は、勇み足でセレスに攻撃を仕掛けてきた。2PA艦隊はうまくおびき寄せ、強大な兵器「
ノイジーラントのバラトゥン・コルホーネンは、強襲砲艦に一人乗り込み、自分の作った艦隊AIベッチーとともに、
コルホーネンはあちこち見て回り、挙動のおかしいロイズのAIの代わりにベッチーのコピーを提供していたが、どの共同体も
しばらくして、セレスが消えたとわかった。セレスに息子がいたブレイドは、《
かつて冷凍睡眠装置を発明したコルホーネンは、多くの時間を眠って過ごしていた。ブレイドに託されたヒエロンの避難船団を21年率いたが、ブレイドと再会し、800名にまで減った生存者を2530年に地球へ降ろす。地球には他には誰もいなかった。
コルホーネンはベッチーの始めた事業が気になり宇宙に一人残っていた。ベッチーは小惑星を原料に大規模な艦隊を作っていた。2570年、500億隻を超える2PA艦隊の準備が終わり、コルホーネンはロボットのルッツに起こされた。冷凍睡眠中の生存者499名を地球に残したまま、生き残った他の人間に会えるかもしれないと期待し、コルホーネンは230年かけてセレスにたどり着いた。
繁殖を終えたリリーは、高次元投射回帰通信「
オンネキッツはかねてからの危機「昏睡の沼」を防ぐために、母恒星クンブコを巨星化し、近くに移動させたもう一つの赤色巨星と合一させて、超新星爆発を引き起こそうとしていた。これを思いとどまらせようと、周辺から68種の宇宙種族が莫大な艦隊を率いこの宙域に集結していた。
セレスを守るためにオンネキッツを止めなければと考えたリリーは、自分たちが他のミスン族と違ってしまったことを自覚した。リリーたちはすでにMMSの一員だった。「昏睡の沼」を食い止める方法をリリーは模索する。
《
イサリはノルルスカインに妹ミヒルを取り戻す方法を尋ねた。彼の身の上話を聞いたイサリは、彼自身もオムニフロラに大切な人を奪われたと指摘し、自分たちの大事なものを取り戻すと意気込んだ。
ハニカムで開かれたMMS新政府と《
カドムとイサリとアクリラは改めて三人で会い、火を囲んで食事する。久々の穏やかな時間に思いがこみあげて泣き出すイサリ。そこにリリーが現れて、ミスチフへの対抗策を提案し始めた。
ようやく明らかにされた地球の状況は、人類滅亡の直前にまで迫る危ういものだった。ブレイドが生き残っていたことは喜ばしいが、数少ない人々がいつまでも殺し合いを続けている状況は、なんともやりきれない。自分たちの宇宙船以外に人類はもういないかもしれないと、恐れながらさすらう状況は重すぎる。
『天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ』(Part2)
《
MMSでは、ドロテア戦艦のミヒルを討伐する
カドムはリリーから提案されたミスチフへの対抗策をラゴスに伝えた。ミスチフはこれまで、淘汰されず、繁殖もせず、一個体のみで6千万年の間、ひたすら拡大して生き続けてきた。他の生き物と異なり、全く進化しなかった古いままの生き物だということが、ミスチフの弱点だった。
リリーはオンネキッツの超新星爆発の代替案として、『
ついに
二つの軍団の侵攻に合わせ、
一方、セレスからユレインを代表とする交渉団が、宇宙に浮かぶ巨大なリングへ向かっていた。カルミアンのエチカや2PAのベッチーナの翻訳で草稿がまとめられ、宇宙感染症の治療に協力でき、ミスチフへの対抗策が必要だと持ちかける。
巨大な樹木のような異星種族カン類を統べる
セレスの中心では、熾烈な戦闘が繰り広げられていた。ドロテアは
イサリとミヒルとの姉妹愛あふれるやりとりは、涙なしには読めない。イサリはミヒルがこれまで一人で背負ってきた重いものを、一緒に背負ってやった。また、これまでに登場した個性的な登場人物たちが何人も犠牲となり、アクリラもぶっ倒れる。かなり辛い巻である。
多くの犠牲のうえに当初の目的は達成され、ドロテアの電力源は確保された。しかしドロテアの芯の部分が離脱して、カンムへと向かってしまった。
また、ついにオンネキッツは二つの太陽を爆発させ始めた。
『天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ』(Par3)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150313623
- お気に入り度:★★★★★
メニー・メニー・シープという人類の箱舟を舞台にした、《救世群》たちとアウレーリア一統の末裔、そして機械じかけの子息たちの物語は、ここに大団円を迎える。羊と猿と
ドロテアが切り離した芯の部分はカンムへ向かい、ミスン族の一人が取り込まれた。
セレスからの交渉団は分裂していた。ラゴスがフェリックスたちに求めたことは受け入れられず、またカン類は個体の生命には無頓着だったため、人間四人とカルミアンたちはシェパード号から逃げ出していた。彼らはカンカラコンカン内部を異星人のナーキドやスミハシたちに助けられて逃げ回る。
フェリックスたちのことは伏せたまま、ラゴスはエランカに人間の生殖細胞を送るよう連絡してきた。しかし、議会でも人々の理解は得られず紛糾していた。だが、逃げていたフェリックスたちは考えを変えて連絡して来た。フェリックスが議会を説得し、流れが変わって承認された。
ラゴスは
オンネキッツに超新星化を思いとどまらせようと、
アクリラはカンムに向かうMMS艦隊の情報空間から総司令官として名乗りを上げ、救助要請があれば受け入れると
連絡してきた異星人に、超新星爆発を凌ぐための「迎え火作戦」と、ラゴスがオンネキッツに提示した作戦をアップデートした「みにくいアヒルの子作戦」について説明する。アクリラの読みどおり、オンネキッツが阻止するために連絡してきた。
アクリラの計画は、フェリックスたちを助けたガジ族に擁護され、詳細を検討したカン類や、他の宇宙諸族からも参加表明があった。安全を期し、周辺で一番大きいセレスで、希望する諸族の幼体を受け入れる。「迎え火作戦」の準備も、カン類やガジ族らの艦隊とも連携し進められた。
しばらく静かになっていたオンネキッツは、カンムで戦闘中だった。ミスチフに乗っ取られたミスン族にカンム地表の超新星化制御施設が占拠されていた。超新星爆発を止めるためには制御施設を取り戻し、二つの巨星を引き離す必要があった。アクリラがMMS艦隊に出撃を指示する。
カンム上空で強襲上陸の準備が進められる。MMS艦隊に混じり、イサリとカドムもカンムへ降下しようとしていた。イサリはオンネキッツに《
また、「みにくいアヒルの子作戦」に使用される生殖細胞も用意され、カン類に引き渡された。「
降下艦隊は大気圏へ突入していったが、カンムでは防空部隊までもミスチフに乗っ取られていた。ノルルスカインが渾身の作戦でうって出る。オシアンが大量の
しかし、超新星爆発はすでに止められなくなっていた。カドムとイサリは
時代は飛んで、3135年。《
『天冥の標9 ヒトであるヒトとないヒトと』(Part1・Part2)
Part2では、イサリがハニカムで、カドムやアクリラがMMSで、停戦へ向けて準備を進める。《
『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと』(Part1)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150312138
- お気に入り度:★★★★★
カドム、イサリらは、ラゴスの記憶を取り戻すべく、セレスの地表に横たわるというシェパード号をめざしていた。それは。メニー・メニー・シープ世界成立の歴史をたどる旅でもあった。しかし、かつてのセレス・シティの廃墟に到達した彼らを、倫理兵器たる人型機械の群れが襲う。いっぽう、新民主政府大統領のエランカは、スキットルら《
ミヒルに連れ去られたゲルトールトは、ハニカムで懲罰房に入れられていたが、施設の改修などで役立ってみせ、やがて監視のスダカの信頼を得た。どうやらドックと呼ばれる区画が軍事上の重要施設のようだった。足が不自由な老婦人の助けを得て、ゲルトはドックに侵入した。広大な施設を破壊しようと小型戦闘機を激突させる。しかし、捕獲されてミヒルの元に連れて行かれた。だが、《
カドムたちを助けた2人組アッシュとルッツは、太陽系から来た艦隊の偵察部隊のロボットだった。大規模な艦隊がセレスの状況を確認するために迫ってきていた。2人はカドムたちの旅に護衛役として同行する。
カドム一行はアイネイアの残した座標を得てシェパード号を見つけ出した。記憶を整理して古い記憶を取り戻したラゴスは、普通の人間だった《
ラゴスの説明途中、《
自力でミスン族としての自我を見出し女王となったリリーは、母星へ通信で呼びかけていたが、イスミスン族の総女王オンネキッツから連絡を受けた。母星への帰還許可を求めたが、リリーたちはまだ当初の目標を達成できていないとして帰還を拒まれ、栄え増えるよう指示された。
リリーは新しい方針として繁殖を掲げた。彼女たちは増えることで高度な知性を保つことができた。子供はハニカム側で生まれて送り込まれていたため、繁殖可能な個体がハニカム側にいるはずだった。雄を得るためにハニカムへ行く必要があった。
この方針変更をクルミがエランカに伝えた。エランカは、カンミアはどんな国を目指すのか尋ねた。人間の求める豊かな国と未来には、カンミアや《
カドム一行はMMSに戻ることになった。MMSから迎えに来る航空警邏艦との合流地点へ向かう途中、イサリは一行と別れて《
ルッツたちが送った報告に紛れて、セレスのダダーは
これでようやくこの惑星の外側の状況が明らかになった。セレスは移動しているようだとは思っていたが、当初は地球から遠く離れた植民地が舞台だと思っていたので、その場所から地球へ向けて移動しているのかと思っていた。実際には逆で、太陽系から双子座ミュー星へと向かっていた。人間の身体を取り戻すためとはいえ、冷凍睡眠で300年もかけてそんなはるか遠くまで向かってしまうとは、《
『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと』(Part2)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150312312
- お気に入り度:★★★★★
セレス地表で世界の真実を知ったカドムら一行は、再会したアクリラとともにメニー・メニー・シープへの帰還を果たした。そこでは新政府大統領のエランカが、《
MMSに帰還したカドムは旅の成果をエランカたち新政府に報告した。カンミアやルッツからの情報も総合すると、双子座ミュー星に近づいたセレスはすでに減速態勢に入り、向かう先で《
新政府軍によって首都奪還作戦が実施され、
一方イサリは、逃げた《
やがて、イサリは皇帝とは異なる意見を持つ人々の信頼を得た。太陽系から艦隊が接近していることを警告する。
ラゴスは《
MMSで真実を広めて回っていたカドムは、地方都市で冥王斑患者の治療に協力していた。治療の合間に、立てこもっていたはぐれ
フォートピークの竪穴では、MMSの兵士が、電源室を守る非常に手強い敵スダカに苦戦していた。新政府はそこに、カドムやクルミ、投降した
MMSに戻って以来、アクリラたち《
MMS宇宙軍の攻撃と内部からの告発により、イサリは《
セレス北極に用意された拠点「
折しも、何者かが2PA艦隊の先遣隊を挨拶代わりに撃破してみせた。ラストはカルミアンの惑星近辺に集結した大勢の宇宙種族がセレスや2PA艦隊を待ち構えているというものものしいシーンで終了する。
ようやく人間同士の戦いを終わらせることに成功したカドムたち。しかし、まだたくさんの異星人が行く先には待ち構えているし、地球の様子もはっきりとはわからない。最大の敵であるミスチフをどう撃退するのかも未だ策はなく、前途はまだまだ多難である。
『天冥の標8 ジャイアント・アーク』(Part1・Part2)
シリーズ第8弾のPart1は、シリーズ第1弾をイサリの側から見た物語。ようやく最初の物語に繋がった。両方合わせて読むと事情がよくわかる。
また、文字通り暗闇に閉ざされて終わったシリーズ第1弾に、希望の光が差し始める。イサリは
Part2では、MMSの真の姿を知った人々が、新しい世界をどうするべきか模索する様子が描かれている。地上の様子を確かめに行くカドムたち一行の冒険と、新政府を樹立したエランカたちがMMSを復興していく様子と、復活を遂げたアクリラの物語が交錯する。
『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク』(Part1)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:978-4-15-031159-9
- お気に入り度:★★★★★
「起きて、イサリ。奴らは撃ってきた。静かにさせましょう」――いつとも、どことも知れぬ閉鎖空間でイサリは意識を取り戻した。ようやく対面を果たしたミヒルは敵との戦いが最終段階を迎えていることを告げ、イサリに侮蔑の視線を向けるばかりだった。絶望に打ちひしがれるイサリに、監視者のひとりがささやきかける――「人間の生き残りが、まだいるかもしれないのです」。壮大なる因果がめぐるシリーズ第8巻前篇。
カバーよりセレス南極に降着していたハニカムで、イサリはアイネイアを逃した罰として長期間眠らされていたが、皇帝により起こされた。
セレスには
途中、凄まじい光とドロテア戦艦を見た。案内役によると、セレスの中心核に竪坑を掘ってドロテアを入れ、惑星に重力を加えていた。彼の犠牲によって逃げ延びたイサリは、エレベーターでダダーに話しかけられて協定を結び、
そこではあまりにも平和な日常生活が営まれていて、驚くイサリ。しばらく隠れていたが見つけられて追われ、
現在は2803年で、イサリが眠らされて300年も経っていた。人々は《
イサリは事情を正しく知っていると思われた臨時総督に投降し、彼らが
イサリはカルミアンから言葉を習い始め、記憶も共有できることがわかり、急速にMMSの裏事情を把握し始めた。MMSはドロテアから電力を供給し、ダダーがそのことをMMS側にもドロテア側にも隠していた。また、臨時総督ユレイン三世は植民地側でただ一人事情を知り、
こうしたことをいっさい知らないMMSの人々の間では、臨時総督を倒そうとする動きが大きなうねりとなっていた。また、人々はドロテア戦艦をシェパード号だと勘違いしていて、臨時総督から奪おうとしていた。イサリだけは、それでは問題は解決しないとわかっていたが、止められなかった。
カドムとアクリラたちはフォートピークへ出発し、やがてMMSの全土が闇に包まれた。革命後に起きる事態にイサリは備えようとしたが、カルミアンの様子がおかしかった。
ついに
大統領に就任したエランカの一行が来たときには、首都オリゲネスは陥落し、彼女の恋人のラゴスはすでに出発していた。
冬眠状態の
ラストで竪坑に落下した後の痛々しいアクリラが登場している。
思えばずっと眠らされていたイサリは、起きている時間のみで考えるとまだ17歳くらいでしかない。せっかく忠告に来たのに、たいした働きができなくても不思議はない。
『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク』(Part2)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:978-4-15-031169-8
- お気に入り度:★★★★★
西暦2803年、メニー・メニー・シープから光は失われ、邪悪なる《
アクリラは食事をしながら話を聞いていた。しかし、その内容はとんでもないものだった。アクリラは何度も耐え難い目に合わされていた。
カドムは一命をとりとめた。フォートピークから脱出した人々は、ここがセレスの地下空間に作られた都市だとイサリから聞かされ、実際に見て確かめるために地表へ行くことにした。
カドム、ラゴス、イサリのほか、《
カドムは道中、対立するメンバーをまとめ上げ、話をし、イサリからも身の上話を聞く。ラゴスは本物のシェパード号を見つけて昔の記憶を取り戻そうとしていた。
一方、エランカはクルミが伝えたこの世界の真の姿を発表した。MMSは準惑星セレスをくりぬいた地下空間にあり、臨時総督府はそれを隠して地下から来る
政府を立て直し当面の食料や電気を回復させたが、
街を取り戻したものの、
カランドラとのやりとりで、《
地表を目指すカドムたち一行は、襲ってくる自動修復機械や
たどり着いた地表の宇宙港で数日探したが、シェパード号は見つからなかった。帰途についた一行は、イサリが見つけたリンゴの木から手がかりを得た。アイネイアの家が面していたコニストン湖がリンゴの先に広がっていた。
しかし
一方、アクリラは危機を脱し、上へ向かって走り出した。途中、年代物の同胞の服とコイルガンを見つけて身につける。真の敵はオムニフロラだった。彼が出たところは真空で、宇宙には2つの恒星が
まだ本調子ではないが、ようやくアクリラが復活した。最初から個性際立つ元気が良いキャラだっただけに、彼が活躍しないと勢いがつかない。だが、彼が遭わされた仕打ちは相当ひどい。このシリーズは、実はかなりエログロ満載なのだが、エロはシリーズ第4弾で不動だろうが、グロはここが一番ひどいかもしれない。
それにしても、300年経っても狭量な倫理観を押し付けてくる