『天冥の標4 機械じかけの子息たち』
続いて、《
『天冥の標Ⅳ 機械じかけの子息たち』
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150310332
- お気に入り度:★★★★☆
「わたくしたち市民は、次代の社会をになうべき同胞が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境のなかで心身ともに健やかに成長することをねがうものです。麗しかれかし。潔かるべし」――
《
しかし手違いが起こり、
また、ハニカムにはゲストの満足感を高めるために、各区画を移動する時に記憶を封じるHSKゲートが設置されていた。おかげでキリアンは記憶を奪われ、自分が誰かもわからないまま、彼専用に作られたアウローラとゲルトルッドの姉妹に奉仕される。しかし満足できず、また記憶を奪われ新たなシチュエーションに放り込まれるといったことを延々と繰り返されていた。この状況に苦痛を感じるキリアン。
さらにキリアンは
サーチストリームと名乗る
一方、ハニカムは
《
また、《
結果的にラゴスは
一方で
ところで、《
二人の姉妹は葛藤し嫉妬する。これと同じような姉妹の構図は、この後でも別の姉妹で繰り返されている。姉妹でありながら、手を汚さざるを得なかった者とたまたま汚さずに済んだ者。愛を得られなかった者と愛を得られた者。こちらも姉妹同士で凄まじい葛藤や嫉妬が繰り返されている。けれどもシリーズ第10弾で描かれていたラストの姉妹愛は感動的だった。
『天冥の標3 アウレーリア一統』
シリーズ第3弾は、舞台は宇宙へと飛び出してスペースオペラ風に描かれている。おそらく
宇宙海賊エルゴゾーンとそれを取り締まる《
また、シリーズ第1弾に登場したアクリラそっくりのアダムス・アウレーリアと、カドムそっくりの食えない中年男
『天冥の標Ⅲ アウレーリア一統』
2249年、木星の大気中に浮かぶ巨大な遺跡ドロテア・ワットの調査が行われていた。8500年前のもので、明らかに人類以外の何者かによって建造されたこの遺跡は、内部は黒い蔓に覆われ、強力なエネルギーを隠し持っていた。調査隊を指揮していたドロテア・カルマハラップ少将は裏切って、ドロテア・ワットを奪ってどこかへ隠してしまった。
時は流れ、2310年。ノイジーラント大主教国のサー・アダムス・アウレーリア艦長は、強襲砲艦エスレルで、海賊エルゴゾーンが襲った《
ノイジーラントの人々は、国の成り立ちも含めて独特だ。肉体を改造していて、体内に多量の電気をためることができる。体内電気で二酸化炭素を分解するため、酸素呼吸を必要としない。そのため《
彼らは身体能力を活かして艦内を酸素のない状態にして戦い、身体にためた電気を使ってコイルガンという電磁誘導砲をぶっ放す。アダムスは見た目は16歳で、中性的で美しく、正装のキルトスカートを翻し、レースにタイツという出で立ちで戦う姿は海賊も見惚れるほどだった。また、エスレルにはシリーズ第1弾でも登場したロボットメイドのカヨも乗り込んでいた。
準惑星セレスで聞き込みをしていたアダムスに、
海賊エルゴゾーンの首領イシスをあぶり出すために、ノイジーラントはこれまで各国が主張してきた軌道専守権を踏み越えて、海賊を片っ端から拿捕し始めた。そのためそれらの国からの苦情も増えた。そんな中、ジュノへの褒賞としてジュノのAIフェオドールが操れる石造りのボディが完成し、エスレルへ届いた。
だがおまけが付いてきた。《
イシスとノイジーラントとの戦いは次第に熾烈になってゆく。ノイジーラントの小惑星セナーセーも大きな被害を受けた。悲嘆に暮れるアダムスを見限って、グレアは出ていった。さらに彼女は貨物船に“デイモスの
グレアとイシスはドロテア・ワットに入り込み、争奪戦を繰り広げる。それをアダムスやジュノが追う。グレアは宇宙服姿の何かを“ドロテア”だと紹介し、それに命じて“デイモスの
グレアの希望とは裏腹に、《
フェオドールのストリームを失った被展開体のダダーは、改造羊の体内に埋め込まれた機械に潜り込んでミスチフから隠れた。
今回は宇宙での戦闘の様子が面白い。強襲砲艦エスレルでの接舷の仕方や、アダムスたちの華麗な戦闘が読み応えがある。また、イシスはアダムスにおまえも海賊だと籠絡しようとした。海賊であることと海賊的であることとの違いが考察されていて興味深い。
とはいえ、海賊との戦闘は命がけであり、多くの人々が亡くなった。アダムスも大切な人を亡くす。また、アダムスが後に恒星間有人探検船に付ける名前も、この時に犠牲になった部下の名前である。
『天冥の標2 救世群』
シリーズ第1弾は、時代があまりに未来へと飛びすぎていて実感が持てなかったが、物語は一転して現代へと戻り、写実的な筆致で描かれる。ちなみに本作が刊行されたのは2010年なので、当時は直近の未来として描かれていた。致死率の高い感染症と戦う、医師と、患者と、患者に寄り添う友達の物語だ。
『天冥の標Ⅱ 救世群』
2015年、パラオの小島で未知の感染症によるアウトブレイクが発生した。知らせを受け、医師の児玉圭伍と感染経路の解明・ブロックが専門の矢来華奈子は島へ向かう。この状況を伝えたのは、島にいた製薬会社役員の孫フェオドール・フィルマン少年だった。
後に冥王斑と名付けられたこの病気は、激しい熱が出てリンパ節が腫れ、眼の周りがうっ血して斑紋ができた。致死率が95%と異様に高く、多くの人が亡くなった。また、患者はフェロモンに似た芳香物質を分泌し、新たな犠牲者を引き寄せていた。感染者は島だけにとどまらず他の地域へも広まり、世界的なアウトブレイクを見せはじめた。
圭伍が島で助けた日本の高校生、
冥王斑の感染源は、猿に似た六本脚のクトコトという奇妙な生物だった。宇宙から来た生き物だという説も出ていた。一方、紀元前2000年頃、まだ謎に包まれた被展開体なるものは羊の先祖に展開して繁殖していた。やがてオーストラリアで
千茅たちは血液製剤のために血液の提供を求められた。彼女たちは冥王斑患者の回復施設で暮らしていた。千茅はやがて
千茅の主治医となっていた圭伍は、冥王斑と戦う医師の一人として有名になっていた。冥王斑は全世界で何度かアウトブレイクを起こしていたが、東京でも起こり、多くの患者が死亡していた。対応にあたった圭吾は、付き合いのあった女性が患者となり、恨んで死ぬのを目の当たりにして憔悴する。世間の患者への風当たりはどんどん強くなっていった。千茅もつらい思いをし続ける。
世界的に増え続ける冥王斑の回復者はココ島へ収容されることになった。圭伍は千茅のために奔走するも、逆の結果となり、千茅も日本を追われた。ココ島で千茅は回復者たちにはっぱをかける。彼女らは評議会を組んで元首を立て現地の政府のようになり、救世群と名乗り始めていた。
こうした回復者たちとの連絡役として、日本特定患者群連絡医師団が作られ、圭伍たちはリエゾン・ドクターとして活動していた。ラストは疑似人格をコピーし続けて欲しいというフェオドールからのお願いと、華奈子への悲しい知らせで終わっていた。
おそらくこの後、華奈子と圭伍は結婚し、二人の子孫がカドムとなるのだろう。シリーズ第1弾のラストで紹介されていた二つの勢力《
患者の隔離はハンセン病の強制隔離を想起させる。これなども本当にひどい政策だったが、本作でもひどい差別により千茅はつらい思いをする。患者たちはどんどん住処を追いやられ、こうしたことが何百年にもわたる恨みつらみとして鬱積してゆく。
また、医師たちにとっても、気をつけていても安全ではなく、ほんの偶然やうっかりしたミスで大勢があっけなく亡くなってしまう、つらいシリーズだった。