『天冥の標1 メニー・メニー・シープ』(上・下)

ようやく『天冥の標』全17巻を読了。結局全巻を読み直し、さらに疑問があった部分をあちこち読み返した。10年かけた大作だけあって、読み応えがあった。間違いなく傑作だ。感想というか、まずはあらすじをまとめていたのだけれど、時間がかかりそうなので少しずつアップすることに。

『天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ』

あらすじ

西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、“海の一統”のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが…小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕篇。

カバーより

あらすじ

謎の疫病の感染源は、出自不明の怪物イサリだった。太古から伝わる抗ウイルス薬で感染を食い止めたカドムだったが、臨時総督府にイサリを奪われてしまう。一方、首都オリゲネスの議員エランカもまた、ユレイン三世の圧政に疑問を抱いていた。彼女は自由人の集団“恋人たち”と知りあうが、ユレイン三世はその大規模な弾圧を開始する。新天地を求めて航海に出た“海の一統”のアクリラは、驚愕すべき光景を目にするが…

カバーより

当初は、地球からはるか離れた惑星ハーブCの植民地メニー・メニー・シープで始まった物語だった。

西暦2803年、入植から300年が経ち、地球をはじめ他の惑星とも交流の無いメニー・メニー・シープでは、民主主義も機能しておらず、臨時総督ユレイン三世の課す配電制限や窒素制限がますます厳しくなり、民衆はあえいでいた。

医師のカドム・セアキと《海の一統アンチヨークス》の統領の息子アクリラ・アウレーリアは、セナーセーの町で起きた流行病に対処する。冥王斑というその病は、硬い鱗に覆われた未知の怪物が感染源だった。その怪物はイサリと名乗り、カドムに親愛の情を見せる。カドムの家にはなぜか拡散時代バルサム・エイジの冥王斑の治療薬が伝わっていた。

ユレインは、植民地へ電気を供給するシェパード号の発電炉や天候を左右する蒸散塔、先導工兵イオニアなど大型ロボットの制御権を握り、原住知的生物石工メイスンを従え、反乱する民衆を軍警によって制圧していた。セナーセーを騒がす怪物の噂を聞き、その《咀嚼者フェロシアン》を連れてくるよう命じる。

海の一統アンチヨークス》はユレインの封鎖する海域を突破して新天地を求めようと計画していた。アクリラを艦長キャプテンとする一行は予想外の近場に陸地を見つけた。そこでは重工兵レジョネイアが壁を築き地下を掘り進めていた。さらにアクリラは滑落して伝説の巨大宇宙戦艦ドロテアが地下深くにあるのを見た。果たしてここは惑星ハーブCなのか。

ユレインの圧政に議員エランカが立ち上がり、カドムも政治活動に巻き込まれていった。ますますひどくなる配電制限に、《恋人たちラバーズ》と呼ばれるアンドロイドや《海の一統アンチヨークス》たちも反乱を起こした。ユレインはシェパード号で一人逃げだすつもりだと噂が立っていた。革命の計画が進み、ダダーのノルルスカインと名乗るソフトウェア人格もちょっかいを出し始める。

共意識で仲間と感覚を共有する石工メイスンは、軍警に激しい暴力で痛めつけられながら、抵抗する市民の制圧に投じられていた。彼女らは仲間を大勢殺されて理不尽さに苦しんでいた。《恋人たちラバーズ》の少年ベンクトからリリーと名付けられたよく喋る賢い石工メイスンは、彼に触発され、「きれいで根性のある」石工メイスンであろうとする。ついに人間への服従を終え、石工メイスンは《休息者カルミア》となった。

軍警と市民が衝突する中、カドムとアクリラ一行はユレインの住むフォートピークへ侵入し、配電制限をやめるよう要求する。しかし、メニー・メニー・シープは実は植民地の人々が思っていた姿と大きく異なっていた。竪穴から《咀嚼者フェロシアン》が次々と現れ、アクリラもカドムも絶体絶命。メニー・メニー・シープは闇と雪に閉ざされた。

『天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ』は、こうした希望を全く持てない状況で終了していた。粘り強い医師のカドム、金髪で細身の美しく元気の良い少年アクリラを筆頭に、怪物のイサリ、石工メイスンのリリー、議員のエランカと《恋人たちラバーズ》の男娼ラゴス、残忍な軍警ザリーチェ将軍、偽りの植民地の臨時総督として重圧に押しつぶされそうなユレイン、地球から来た謎の人物ルッツとアッシュ、敵か味方かわからない偽薬売りダダー、ロボットのフェオドールやカヨなど、人間や人間ではないものが入り乱れて活躍する。しかし、植民地や地球が実際にはどうなっているのか、どういう状況で植民したのか、《咀嚼者フェロシアン》とは何なのかなど、多くが謎に包まれたままだった。

さらに、ラストで六つの勢力について語られていた。

かつて六つの勢力があった。それらは「医師団リエゾン・ドクター」「宇宙軍カバラ」「恋人プロスティテュート」「亡霊ダダー」「石工メイスン」「議会スカウト」からなり、「救世群ラクティス」に抗した。「救世群ラクティス」は深く恨んで隠れた。時は流れ、植民地が始まった――。


この後、それぞれの勢力の物語が徐々に語られていく。物語は多岐にわたりそうである。

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まだ読んでいない『バビロニア・ウェーブ』と『皆勤の徒』を購入しようかな。

『ダーク』シーズン2

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 タイムトラベルSFとして非常に面白かったドラマ『ダーク』。シーズン2が公開されていたので、一気に全作を視聴。謎が解けた部分もあったが、新たな登場人物も増え、謎は深まる一方だ。このループは解決するのだろうか?

 シーズン1では登場人物たちの人間関係や血縁関係を把握することに苦労したが、シーズン2になり、それがますます複雑で重要になってきた。シーズン1の人物関係も少しあやふやになっていたため、家系図を整理するアプリを使って整理してみた。とはいえ、通常の家系図アプリはタイムトラベルを前提としていないので、無理があることも。改めて整理し直すと、実に複雑な人間関係だ。しかもまだわかっていない血縁関係もいくつか見え隠れしている。

 ともかく、ハンナの家にはしっかり鍵をかけておくように!

  • シーズン1のおさらい
  • さらにこんがらがってゆくシーズン2
  • シーズン2のあらすじ
  • 増殖するタイムマシンと時間の裂け目
  • 濃すぎる血縁関係
  • 始まりのないループは可能なのか
  • さらなる謎
  • 家系図

シーズン1のおさらい

 少し未来の2019年11月4日*1、森の中の静かな町ヴィンデンでは、少年が失踪した事件の捜査の進展状況について、夜の学校で住民に説明会が開催されていた。そんな中、主人公の高校生ヨナス・カーンヴァルトは、友人たちと森の洞窟へ行く。メンバーはマグヌス・ニールセン、その姉でヨナスの元恋人マルタ・ニールセン、ヨナスの友人で現在マルタがつきあっているバルトシュ・ティーデマン。ニールセン家は両親とも説明会に参加していたため、マグヌスたちは弟のミッケルも連れてきていた。

 洞窟の手前で、マグヌスが惹かれているフランツィスカ・ドップラーと合流。その時奇妙な音と光の点滅があり、6人は怯えて逃げ出した。ヨナスはミッケルと一緒にいたが、ふと気がつくとミッケルがいなくなっていた。

 警察署長のシャルロッテ・ドップラー(フランツィスカの母)は、警官のウルリッヒ・ニールセン(ミッケルたちの父)と捜査にあたる。息子のミッケルを必死で探すウルリッヒ。33年前に、ウルリッヒの弟のマッツも行方不明となり、未だに見つかっていなかった。大規模な捜索の末、死亡して間もない少年の遺体が発見された。しかしその遺体はミッケルのものではなく、古めかしい服装をしていた。

 調べを進めるうちにウルリッヒは、洞窟内に原子力発電所の扉があることを知り、ミッケルが発電所に入ったのではないかと疑う。しかし所長のアレクサンダー・ティーデマン(バルトシュの父)はこれを否定する。

 ウルリッヒは闇雲に調べてまわり、やがてマッツの事件との関連も疑い始める。当時捜査にあたっていた警官エゴン・ティーデマン(バルトシュの祖母クラウディアの父)の捜査資料を元に、原子力発電所で働いていたヘルゲ・ドップラー(シャルロッテの夫ペーターの父)の証言を確認しようとするウルリッヒ。ヘルゲの後を追い、次第に真実へと近づいていく。

 一方、ヨナスは父親の遺書の入った箱を受け取った。ヨナスの父親は、約半年前の2019年6月21日に自殺していた。父親の秘密を知ったヨナスは、彼の部屋で見つけた地図を頼りに洞窟を抜け、真実を確かめにゆく。

さらにこんがらがってゆくシーズン2

 シーズン2では、2020年6月27日に起きる終末に向かって、1週間前からカウントダウンで描かれる。しかし、何人もの人々がタイムマシンを使ってそれぞれの目的で行動するため、33年周期に該当する各年代(1921年、1954年、1987年、2020年、2053年)でも、さまざまな動きがある。

 また、同じ人物でも時間を旅することで人数が増えていく。子供時代、成年時代、老人時代と、さまざまな時間軸の同一人物があちこちに登場するので、それらを追うのが大変だった。その上、異なる時代が並行して描かれているので、今がいつなのかを見極めながら観る必要がある。

シーズン2のあらすじ

 2020年6月、ヴィンデンでは計6人が行方不明となって進展がないまま、8ヶ月が過ぎていた。また、原子力発電所はあと1週間で閉鎖されようとしていた。

 特別捜査班に主任として赴任してきたクラウゼンの指揮で、事件の再捜査が行われることになった。同行を命じられるシャルロッテ。新たに提出された捜査資料には、見覚えのある図があった。それは、彼女を引き取って育ててくれた祖父タンハウスの著書『時間の旅』に掲載されていたものだった。

 また、シャルロッテの下の娘エリザベートは、タンハウスの遺品から集合写真を見つけた。そこに写っていた一人が、以前彼女に懐中時計を手渡した謎の牧師ノアだった。写真の裏には1921年と書かれていた。

 1987年のヴィンデンでは、原子力発電所で所長を務めるクラウディア・ティーデマン(バルトシュの祖母)が、白髪の老女の訪問を受けていた。2020年では、ハンナ・カーンヴァルト(ヨナスの母)が見知らぬ男性の訪問を受けていた。老女と男性は、それぞれ相手に素性を明かし、信じがたい真実を告げる。クラウディアもハンナも途方に暮れる。

 ハンナはシャルロッテに相談した。シャルロッテは夫のペーターとともに、二人が知っていた事実をハンナに説明する。カタリーナ(ミッケルたちのの母)にも知らせることになった。最初は信じなかったカタリーナも、証拠を目にして真実を認めざるを得なくなる。さらにニールセン家とドップラー家の子供たち計4人も、バルトシュを脅して、彼が聞いていたことを聞き出し、装置を奪う。

 こうして関係者の多くが真実を知り、自分の受け入れがたい過去や未来を正そうとする。しかし実際にはそれが終わらせるのではなく始めることにつながってしまう。

 シーズン1で、ヨナスは時間の裂け目を閉じたのだが、思う結果にならなかった。今回も愛する人びとを救おうと行動するが、またしても同様の結果となってゆく。こうして終末の訪れとともに2巡目も終了する。

増殖するタイムマシンと時間の裂け目

 今回、時間を旅する方法も増えている。

 まず、タイムマシンがいくつも登場する。おそらく実際には一つで、時間軸が異なるのだろうが、同時に登場するのでややこしい。

 1つ目は、シーズン1で1953年に設計図が持ち込まれ、タンハウスが33年かけて製作中だったもの。おそらくこれの完成品を老女が受け取り、持ち歩いている。そしてたぶん1954年に庭に埋められ、1987年に掘り起こされた。これは2020年に貯蔵室に持ち込まれて終末を迎える。

 2つ目は、男性の依頼でタンハウスが修理し、依頼主に返したもの。ハンナがこれを勝手に持っていってしまった。ハンナは復讐を果たしてその後は不明だ。

 3つ目はバルトシュが持っていたもの。これはマグヌスが取り上げ、カタリーナが持ち出し、ハンナの家に置いたまま出て行った。これをヨナスがマグヌスたちを救うためにニールセン家に持ってくる。

 おまけに、ラストでこれまでとは異なる球形のタイムマシンまでが登場した。これは小型化していて携帯性に優れる。技術が進歩しているようだ。

 次に、タイムマシンとは別に、異なる時代へ行けるポータルもある。

 1921年の教会にはアダムが作ったものがある。これは他の時代でも教会にそのままあり、使える状態ではないかと思う。

 2053年の原子力発電所には、終末の際にできてしまったものがある。電力を確保できれば安定化させることができる。

 さらに、せっかくふさいだ洞窟の時間の裂け目も、復活させた。といっても、ふさいだのはもしかすると2020年↔︎1987年のもののみで、2020年↔︎1953年のものはずっと開きっぱなしのままだったのかもしれない。

 今やヴィンデンは時間移動し放題の状況だ。

濃すぎる血縁関係

 このドラマには、大きく関わる4つの家系があると思っていたが、だんだんこれらが一つの家系に集約されつつある。そもそも最初から、ヨナスとマルタ、マルタとバルトシュ、マグヌスとフランツィスカ、ハンナとウルリッヒと、各家系間で恋愛関係にあった。しかし、ハンナとミハエルのように、真実がわかるとますます各家系の関係が濃いことが判明する。

 シーズン1ではタンハウスとシャルロッテの関係がよくわからなかったが、今回、幼いシャルロッテをタンハウスが引き取って育てたことが判明した。彼女は実の両親が誰なのか知らなかったが、父親については明かされた。母親も判明するのだが、衝撃的すぎて本人には明かされなかった。

 また、シャルロッテの夫ペーターは、ヘルゲ・ドップラーの息子ということになっているが、これも実際には血がつながっていないのではないかと私は思っている。シーズン1でペーターがヘルゲの山小屋へ来た時期について、シャルロッテとやり取りしていたことからそんな印象を受けた。これは養子か再婚で来たという意味ではないかと思うのだ。ペーターの母親についてはまだ明かされていない。

 さらにヘルゲについても、彼の母グレタが浮気を告解しているので、実際にはベルントの子供ではないかもしれない。相手については明かされていない。

 クラウディア・ティーデマンの娘レジーナの父親も、誰だかわからない。もっとも、これは単純にクラウディアの浮気相手トロンテ・ニールセン(ウルリッヒの父)かもしれない。となるとバルトシュとマルタはいとこ同士だ。

 トロンテの父親についてもまだわかっていない。母親のアグネスによると、牧師で、すでに亡くなっているとのこと。だから当初はノアが父親かと思っていたのだが、違うようだ。しかしトロンテはノアと無関係ではないことが判明する。こうしていろいろとつながってくる。

始まりのないループは可能なのか

 タンハウスは、ブートストラップ・パラドックスについて説明していた。彼は設計図を渡されて、何の機械かわからないまま作り始めた。作動させるためには、未来から来たスマホが使われる。未来も過去に影響を与えるとタンハウス。こうしてタイムマシンは完成した。

 では、このタイムマシンの設計図は誰がいつ描くのか。未来のタンハウスか。とするとどこが始まりなのか。こうして物体は終わりのない永遠の周期を生み出す。

 始まりがどこにもないというタイムループは可能なのか。SF的にはこれは新しいのではないかと思っていたのだが、最後はパラレルワールド化し始めた。パラレルワールド化せずに発生するのが新しいのではという気がしていたので、ちょっと残念。

さらなる謎

 ミッケルが行方不明になった状況など、今回謎が解けた部分もあったが、まだまだ謎も多い。

 アダム率いる「旅人シーク・ムンドゥス」 は、時間=神のいない世界を作ろうとしていると言っていたが、まだ何をしようとしているのかよくわからない。冒頭で殺害されたのは何者か。彼はノアに、ノアと名付けられた意味をアダムに問うよう言った。だとするとノアは、箱舟に遺伝子を乗せて終末を乗り越える役回りなのだろうか?

 彼らに対抗しているのが、「白い悪魔」。ペーターは彼女に手帳を渡されていて、そこには未来で起きることが書かれていた。その手帳から破り取られた最後のページをアダムは探している。手帳を書いたのは誰で、ノアがショックを受けたそのページには何が書かれていたのか。シャルロッテがどう関わっているのか。

 1986年で失踪した少年たちについては、人体実験に使われたのではないかと私は考えている。貯蔵室のタイムマシンでうまく他の時代へ送れるかどうかを確認していたのではないだろうか。しかし、ヘルゲがこの時代に飛ばされてくるのは、少年たちが失踪した後だ。とはいえ、このドラマでは時間はどうとでもなる。もしかすると、開発に時間がかかるのを見越して、ヘルゲが来る前から用意していたのかもしれない。

 アレクサンダー・ケーラーのことについては一切が不明だ。彼に何が起きたのか。ボリスは何者でなぜ追われていたのか。二人の間に何があったのだろうか。

 シャルロッテの部下のウェラーも引き続き気になる。ウェラーが片目を怪我した理由は、明かされようとしたその寸前に邪魔が入った。また、駐車場で営業している女装の売春婦ベニは、どうやらウェラーの兄弟のようだ。ウェラーは現状ではアレクサンダーの単なる手先でしかないが、いずれ何か関わってくるのではないだろうか。

 シャルロッテは助かるかどうか微妙な状況だったが、その他の人々はそれなりに終末を乗り超えられそうだ。3巡目でこれらの謎が解けるのだろうか?

家系図

 ある程度のネタバレを含んでいるので、続きは見たい方のみどうぞ。

*1:シーズン1は2017年の製作

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