『移動都市/モータルエンジン』
『移動都市』の映画版
映画『移動都市/モータル・エンジン』を観てきました。原作はフィリップ・リーヴ作の『移動都市』。製作と脚本が『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンだけあって、特撮CGや、都市・街並み・乗り物などのデザイン、風景、美術といった世界観の作り込みがめちゃくちゃ良くできていました。原作の雰囲気を見事に表現しつつ、リアリティを持たせた重厚感のある作りになっています。メカ好きには必見です。
無理筋ながら魅力的な世界観
『移動都市』というタイトルの通り、この世界では都市そのものが、そこに住む人々を乗せたまま疾走します。都市が生き物のように獲物を求めてうろつきまわり、他の弱い都市をむさぼり食うという弱肉強食の世界設定で、都市
設定自体にはかなり無理がありますが、それはさておき、この世界観は非常に魅力的です。メカメカしい都市や飛行船など、メカ好きにはおそらくたまりません。メカ好きのうちの旦那は原作も知らないのに夢中になっておりました。私自身はメカにそこまで思い入れはないのですが、それでも登場する都市や乗り物などのデザインはすばらしく、非常に魅力的で良い出来栄えです。
特に移動都市ロンドンが岩塩採掘都市を狩るシーンは迫力満点。都市が都市を喰らう感じがよく表現できていました。また、ロンドンの街並みも魅力的。最上部にはセント・ポール大聖堂がそびえ、前方のキャタピラ上部にはトラファルガー広場のライオンが鎮座しています。遠目には『風の谷のナウシカ』に登場する王蟲のようです。他にも、空中都市エアヘイヴンの造形も魅力的だし、要塞都市バトモンフ・ゴンパ〈楯の壁〉をロンドンが攻撃するシーンも迫力がありました。
うまく整理し直されたストーリー
主人公は、移動都市ロンドンに住む史学ギルド見習いのトム・ナッツワーシー。冒頭でロンドンは岩塩採掘都市を追いかけ回して捕獲します。この都市からロンドンに乗り移ってきた一人の女性が、トムのあこがれるキャサリンの父であり、尊敬するギルド長でもあるサディアス・ヴァレンタインに斬りかかります。とっさにヴァレンタインの命を救ったトムは、逃げる女性を捕まえようと追い詰めます。彼女は自分の頬にある大きな傷跡を見せ、ヴァレンタインがヘスター・ショウに何をしたか尋ねるようトムに告げて、ロンドンから脱出します。
その後、トムもロンドンから外界へと振り落とされてしまう羽目に。ヘスターに助けられたトムは、しばらく彼女と同行します。ヘスターはトムに阻止されてしまった復讐を再び果たすために、ロンドンを追いかけていました。しかし過酷な外界で、二人は危険にさらされます。また、ヘスターを狙って〈復活者〉シュライクが追いかけてきます。〈復活者〉とは、戦場から回収した兵士の死体にオールドテクのマシンを神経系につないでよみがえらせた、何百年も前につくられた人造人間です。
相次ぐ危機を回避し、最終的に窮状を助けてくれたのが高速飛行船乗りの女性アナ・ファン。赤いコートにサングラスという出で立ちで、赤い飛行船〈ジェニー・ハニヴァー〉号を操ります。彼女のアクションシーンもかっこいい。
そして、物語はオールドテク〈メドゥーサ〉をめぐり、移動都市ロンドン VS 反移動都市同盟の戦いへと発展してゆきます。トムとヘスターは〈メドゥーサ〉を阻止すべく奮闘。
原作を改めて読み直すと、映画より遥かに過酷な内容でした。原作では、ヴァレンタインの娘キャサリンとトムの友人べヴィスがもっとずっと活躍していて、ヘスターやトムの活躍は少々見劣りします。映画はそのあたりをトムとヘスターの活躍に変え、メドゥーサの阻止に一役買わせていました。シュライクの持ってたペンダントなんかも原作にはありません。また、ヴァレンタインももっと葛藤を抱えていて人間味がある人物として描かれていました。とはいえ、原作の良さを損なわずうまく整理されていたと思います。
また、ヘスターのイメージは原作どおりで良かったと思います。トムは私の印象ではもっと若いイメージがありましたが、オールドテクマニアっぽさがよく表現されていました。
広告不足?
製作にものすごくお金をかけたらしい素晴らしい出来栄えの映画でしたが、その分広告費には予算が振り分けられなかったのか、あまり話題にもならずに終わってしまった感じでした。3月は上映されている映画も多くて目立たなかったのかもしれません。続篇もさらに魅力的な都市が登場するので製作してほしいのですが、難しいかもしれないですね。
原作概要
- 著者:フィリップ・リーヴ
- 訳者:安野玲
- 出版:東京創元社
- ISBN:9784488723019
- お気に入り度:★★★★☆
60分戦争で文明が荒廃した遥かな未来。世界は都市間自然淘汰主義に則り、移動しながら狩ったり狩られたり、食ったり食われたりを繰り返す都市と、それに反撥する反移動都市同盟にわかれて争っていた。移動都市ロンドンに住むギルド見習いの孤児トムは、ギルド長の命を狙う謎の少女ヘスターを助けるが……。過酷な世界でたくましく生きるトムとヘスターの冒険。傑作シリーズ開幕。
カバーより『レッド・マーズ』『グリーン・マーズ』『ブルー・マーズ』
リアルな火星三部作
1990年代に書かれた、火星への植民を描いたSF大河小説。
三部作の最後の作品『ブルー・マーズ』が、前作の『グリーン・マーズ』から実に16年経ってようやく邦訳された。『ブルー・マーズ』の上巻を半分くらいは読み進めたのだが、さすがに年数が経ちすぎていて、登場人物の人間関係がわからなくなってきた。結局最初の『レッド・マーズ』から読み直すことに。
2027年、選抜された科学者集団〈最初の百人〉が乗り込んだアレス号は火星に到着し、国連主導で火星への植民が始まった。火星を緑化し、宇宙ステーションや街を築く。地球からは、物資や後続の植民者も送り込まれて来る。
地球では多国籍企業が合併して国家の規模を超えたものが現れてきた。火星の事業を推進する国連も、次第にこうした企業の支配下となってゆく。
火星の緑化をどう推進するのか、政治や経済、法律を、新しい世界にどう築いていくのか、独立をどうやって勝ち取るのか、こうした課題に人びとは直面する。火星の主導権をめぐって争いが起きる。
また、寿命が大幅に延び、人口が爆発的に増加した。過密状態の地球から、火星だけでなく、太陽系全域へと、人類は広がってゆく。こうした歴史の流れが、主に〈最初の百人〉の主要メンバーの、200年以上にわたる長い生涯を通して描かれている。
火星を描いた近未来SFとして、当初から実にリアルに感じられる作品だった。現在では火星探査も進み、地表のクリアな映像を見ることもできるが、当時の火星は全く未知の世界だった。今や、登場人物たちが火星へ入植した2027年はあと8年後に迫っている。スマホが登場しないなど現実と異なる部分も少なくないが、時代遅れという感じはしない。
今回改めて読み直してみて、この三部作は大河小説であり、人間ドラマだったのだなと思った。最終巻を読むまでは、もっと技術的なものや時代の流れといったものが主題だと思っていた。最後まで読まなければ作者の意図はわからない。完結するのとしないのとでは、物語の捉え方も大きく違ってしまう。しかも、読めば読むほど傑作だと思える、濃密な作品だった。最終巻が発行されて本当に良かった。
ネタバレ無しでは、感想も紹介も難しかったため、書籍概要以降、詳しくはネタバレOKの方のみどうぞ。
- リアルな火星三部作
- 書籍概要
- 『レッド・マーズ』 やたら対立しあう〈最初の百人〉たち
- 『グリーン・マーズ』 地下組織の人びと
- 『ブルー・マーズ』 広がりゆく人類の生活圏
- 壮大な大河小説
- 色彩表現のすばらしさ
- 軌道都市
- 主な登場人物
- 〈最初の百人〉
- 火星生まれの子どもたち
- その他
書籍概要
- 著者:キム・スタンリー・ロビンスン
- 訳者:大島豊
- 出版:東京創元社
- ISBN:4-488-70703-3
- お気に入り度:★★★★★
火星表面には数多の巨大テント型居住施設が完成し、地球から数万の植民者が送り込まれてきた。また人と資源の移送を容易にするため、火星上空の衛星軌道にまで達する人類初の宇宙エレヴェーターの建造も始まる。だが、この星は地球の延長ではない。そしてある日、革命が勃発する。各地の植民街が決起し、ついには宇宙エレヴェーターが衛星軌道から落下しはじめた。空前の崩壊劇!
カバーより- 著者:キム・スタンリー・ロビンスン
- 訳者:大島豊
- 出版:東京創元社
- ISBN:4-488-70704-1
- お気に入り度:★★★★★
地下活動を繰り広げていた〈最初の百人〉は、突如として暫定統治機構から襲撃を受ける。ついに所在が知られたのだ、彼らは植民者の総力を結集して、一つずつ反撃を開始する。――火星の独立をめざして。今度こそしくじってはならない。現代SF界の最前線に立つロビンスンが、驚異的な取材力と卓越した想像力を駆使して描きあげた、途方もなくリアルな未来の火星。三部作第二弾!
カバーより- 著者:キム・スタンリー・ロビンスン
- 訳者:大島豊
- 出版:東京創元社
- ISBN:978-4-488-70707-1
- お気に入り度:★★★★★
『オーファン・ブラック 暴走遺伝子』
カナダとアメリカのTV局が合同で製作した、クローンを扱ったSFドラマ。NETFLIXで視聴。1シーズン10話で、シーズン5まである。
あらすじ
主人公のサラ・マニングは、駅で自分と同じ顔をした女性が飛び込み自殺をするシーンを偶然目撃。置かれていた彼女の荷物をとっさに持ち去った。
身分証によると、自殺した人物はベス・チャイルズ。彼女の銀行口座には大金があったため、同じ里親の元で一緒に育った義理の弟フェリックスの助けを借り、ベスになりすます。サラはこのお金を手に入れて、フェリックスと娘のキラの3人で再出発しようと画策していた。
しかし、ベスの仕事の相棒アートにみつかって、連れて行かれた先は警察署。ベスは刑事だった。
事情がわからないままサラはベスとして立ち回るが、次から次へとやっかいな状況に巻き込まれ、目的はなかなか果たせない。また、自分と同じ顔をしているのはベスだけではなく、もっとたくさん世界中にいることがわかってきた。
その上、そんな一人がいきなり現れて、とんでもない事態に。おまけにサラは何者かに殺されかけた。
窮地に追い込まれたサラは、ベスのふりをして警察署で捜査を撹乱する。また、何が起きているのかを知るために、貸し金庫に証明書のあったアリソンとも接触する。
アリソンは郊外の住宅地に住むサッカーママで、やはりサラと同じ顔だった。また、ドレッドヘアにメガネをかけた科学者コシマにも紹介された。
二人によると、みんなはクローンで、何者かに命を狙われているという。だが、誰がどういう事情でクローンをつくったのか、オリジナルは誰なのか、クローンたちは果たして何人いるのか、誰にもわかっていなかった。
目まぐるしく変化する、謎に満ちたストーリー展開
矢継ぎ早に起きるスリリングなストーリー展開が秀逸で、ぐいぐいと引き込まれ、続きを一気に観てしまう。
クローンたちは、実験対象として身近な人物に監視されていた。誰が監視役かわからず、疑心暗鬼になるサラたち。次々と敵が現れ、命を狙われ、ピンチを機転で切り抜ける。
敵も、自己選択で身体改造を行うネオリューション、多国籍企業ダイアド研究所、宗教過激派組織プロレシアンズと三つ巴で、それらに属する人物たちが手を結んだり、裏切ったり、組織を入れ替わったりと、目まぐるしく変化する。
また、クローンたちは死に至る共通の病気を抱えていた。治療法を求めて研究を続けるコシマ。
一方、サラだけは少し特殊な体質だった。しかし、そのために娘のキラまで狙われ始める。
一人何役をも演じる主演女優タチアナ
ストーリーも面白いが、登場人物たちの個性が際立っていて、存在感がある。
とりわけ、主演女優タチアナ・マスラニーによる一人何役にものぼる演じ分けがすごい。この作品で彼女は第68回エミー賞の主演女優賞を受賞している。
それぞれのキャラクターは、化粧や服装で雰囲気を変えて違いを出すのは当然としても、歩き方や姿勢から、仕草、喋り方、性格、好みに対する表情などまで変えて演じ分けられている。
そのため、特にメインとなる、サラ、アリソン、コシマ、ヘレナ、レイチェルなどは、全く異なる人物としか思えず、それぞれの人物に感情移入しながら観てしまう。
ピンチの際には、クローンの別の人物になりすまして急場をしのぐという事態が何度もあるのだが、この入れ代わりも実に見事に演じ分けられている。
何となく仕草がぎこちなかったり、いつもと違う歩き方だったりと、同じ顔、同じ服にもかかわらず、ちゃんと誰が誰を演じているのか見分けがつく。そこがすごい。
同じ遺伝子を持つクローンでも、彼女たちはそれぞれ異なる人生を歩み、悩みや問題をかかえ、目標や理想を持ち、周囲の人々との人間関係を築いて日々を暮らしている。こうした人物描写が、ストーリーに奥行きを与えている。これがこのドラマの一番の魅力だと思う。
主なクローン姉妹
- サラ
シングル・マザーで、ちょっとした詐欺や暴行などの前科がある。
娘のキラをミセスSに預けたまま失踪していたが、キラと暮らすために、粗暴な元恋人のヴィクからコカインを持ち逃げし、10ヶ月ぶりに戻ってきた。
ベスの金を奪って逃げようとしていたが、クローン姉妹たちに出会ったことで逃げるのをやめ、問題に正面から立ち向かうことを決意する。
亡くなったベスに代わってクローン姉妹たちを守るために危険を犯して戦い続ける。
- ベス
冒頭で自殺。
警察のシステムを利用して、欧州でクローンが狩りに遭った事件を調べていた。その過程でアリソンとコシマに接触。クローンたちを守ろうとしていた。
しかし、自殺前に民間人マギー・チェンを誤って死なせてしまい、謹慎処分となる。また、恋人ポールとの仲も冷え切り、精神的にも追い詰められていた。サラと似てるが、もっと洗練されていて、サラより少しもろい。
シーズン4の1話目は、自殺する直前のベスが登場するエピソードだ。
- アリソン
夫ドニーと二人の養子の4人家族。教会や学校の活動に勤しみ、ミュージカルにも挑戦している。
完璧な主婦を目指しつつも、その反動でか「デスパレートな妻たち」ばりに派手に道を踏み外す。手芸用リボンで夫を縛り付けて拷問するなど、日常と非日常の落差が面白い。
- ヘレナ
ウクライナの修道院で育った野生児。その後引き取られた先で、過激な思想を吹き込まれた。また、子供時代から深刻な虐待を受けてきた。
しかし、サラたちに受け入れられたことで変わってゆく。甘いものと子供が大好き。荒事担当。
- レイチェル
ダイアド研究所の幹部で、ダンカン博士の養女。他のクローンたちとは違って、子供の頃から自分が実験対象だと知らされていた。
権力志向で、非常に脆い面と冷酷な面を併せ持つ。
- クリスタル
ネイルアーティスト。
少々見当はずれながらも、自分の身の回りに起きるおかしな出来事に疑問を持ち、調べ回る。結果として、彼女の仮説はあながち的外れでもなく、行く先々で重要な目撃者となることに。
- MK
羊の仮面をかぶったハッカー。めちゃくちゃ引っ込み思案で、誰とも顔を合わそうとしない。唯一ベスと連絡を取っていた。
- カーチャ
ドイツ人。ベスと連絡を取っていた。
個性豊かな脇役たち
クローン以外の登場人物たちも、一癖も二癖もある人物が多くて味がある。中でもサラの弟フェリックスがいい。
アーティストのたまごのフェリックスは、ゲイで男娼もしながら日銭を稼ぐ。いつも素っ裸にエプロンをつけたお尻丸出し姿で油絵を描いている。
サラの一番の理解者だ。アリソンとも馬が合う。落書きだらけの彼の家は、サラを取り巻く多くの人が訪れて、次第に溜まり場のようになってくる。
養母のミセスSことシボーンは、当初はキラをサラから引き離そうとする厳しい人物に見えたが、実際には二人の子どもたちを愛し、献身的に育ててきた肝っ玉母さん。
アイリッシュ魂を持つパワフルな女性で、活動家。ロンドンでは歌手をしていた。家族を守るためにはライフルもぶっ放す。
他にも、良き味方となってサラたちを助けるベスの相棒アート、粗暴なドラッグの売人だが、涙もろく、気の毒なほど痛めつけられてしまう、サラの元恋人ヴィク、イケメンだけど、敵か味方かわからないベスの恋人ポール、ブリーフ姿がおちゃめで、陽気で気のいいアリソンの夫ドニー、コシマに告白されて女性との愛に目覚めるフランス女性デルフィーヌ、コシマと一緒に研究を進めるオタク科学者スコットとそのボードゲーム仲間たち、いたぶられることに快感を覚える敵方フェルディナンドなど、個性際立つユニークなキャラクターが周りを固めている。
科学実験はどこまで許されるのか
SF的には、人間が神の領域に踏み込むことの倫理問題を扱っている。
先日中国では、遺伝子をゲノム編集した双子の子供がついに実際に誕生した。父親が罹患していたエイズを遺伝子から取り除いたとされるが、大きな批判を浴びた。
このドラマでも、クローンを生み出したり、人体改造や長命化、人体実験を行ったりすることの是非が問われている。
身体を改造することはどこまで許されるのか。失われた器官、例えば手や足などを補助する器具については、すでに義手や義足などが実現している。見た目だけでなく、今では機能や性能も飛躍的に進歩してきている。とはいえ、現状では自分から手足を切り落として器具に取りかえる人は居まい。
でも、技術が進歩して生身の手足よりはるかに高機能・高性能な器具になったら?通常よりはるかに跳躍力を持つ足は?あるいは、本来の人間にはない機能を追加することだってできる。赤外線が見える目は?技術が進むと、必要もないのに身体を改造してしまう人が出てくるかもしれない。
整形の場合はどうか。美しくなるためなら、健康な身体にメスを入れて良いのものか。これは現在多くの人がすでに行なっている。
では、どこまでなら許容されるのか。美や理想像は個人によって差がある。憧れのアイドルに合わせて整形するのは?興味本位や単なる趣味、今ならインスタ映えで身体改造するのはどうか?
また、身体改造を行う権利というものは個人にあるのか?基本的人権として万人に認められるべきものなのか?
人工授精で子供の親を選ぶ場合はどうか。金髪・碧眼にしたい、知能レベルを良くしたい、身長を高くしたいなど、親がこだわりたいポイントはいくつもあるだろう。こうした親の持つ特徴により、精子や卵子の値段は変わるかもしれない。実際、こうしたことはすでに行われていそうだ。でも、問題は生まれてくる子どもたちには、何の選択肢も拒否権もないことだ。
サラたちの敵は、他人の命を自分の利益のために葬ってもなんとも思わない、利己的で冷酷な人物たち。特に最後に画策していた人体実験はひどすぎる。
サラたちは、自分たちや家族、大切な友人たちが安心して自由に暮らせるようにするために、正体のわからない敵と戦ってゆく。
テーマ
ドラマ全体を通して流れているテーマは、家族や友人を愛し、守る精神。その中心にいるのがサラで、みんなを心配し、危険を顧みず敵方に乗り込み、クローン家族をつなげる役割を果たしている。
サラ以前にその役割を果たしていたのがベスだったが、彼女は一人戦い打ちのめされ、自ら命を断ってしまった。サラも、途中ベスのように戦いに疲れ果てる時があるが、家族のためにまた戦いに戻ってゆく。
最後には、孤児だったサラが多くの家族に囲まれる。それは血の繋がりだけにとどまらない。「生まれより育ち」というのも、テーマのひとつになっている。実際、クローンたちは同じ遺伝子なのだ。サラたちが全く異なる人物像となっているのは、生まれより育ちが大きな影響を受けているからに他ならない。
大きすぎる犠牲に打ちのめされながらも、家族を得て幸せをつかむストーリーになっているのが心地よい。